松沢呉一のビバノン・ライフ

人事院の「懲戒処分の指針について」を読むべし—セクハラって何?[3]-(松沢呉一)-3,898文字-

Unwelcome(意に反して)をどう解釈するか—セクハラって何?[2]」の続きです。

 

 

 

より明確な定義を

 

vivanon_sentenceなぜEEOC(米雇用機会均等委員会)は誤解がないようにはっきりとした言葉で説明をしなかったのかわからないのですが、あれはガイドラインなので、厳密な線引きを必要としなかったためかもしれないし、意思表示をすることが当たり前の文化圏においては「言うまでもなかろうて」ということだったのかもしれない。

忖度の国に生まれて育った私でもあれを読んで「意思表示が必須」と判断したように、小学校の標語じゃなく、ルールとして成立させるにはそう考えるしかない。

ただし、前回、簡単に説明したように、別の要件がつくことで、拒否を経なくてもセクハラが成立する定義もまたありだと思います。

具体的に言うと、社長が部下の住んでいるマンションにいきなりやってきて性的関係を迫るようなケースです。その立場から家を知り得たのですし、部屋の前まで社長が来たら、部屋に入れるしかないでしょう。そこで迫られたら逃げ場がなくて、拒否するか否かの判断をする余裕もない。

これに類するものとして「銀蔵セクハラ事件」があります。あれはひどい話ではあるのですが、社長が部屋に行く前に電話での確認をしている点、最初に軽く抵抗はしているものの、以降関係を継続していた点など、不法性を軽減させる要素があるので、印象のひどさほどは、すっきりとはいかない事例であることも確か。社長じゃなくても電話をして家に行くことはできるわけですから、その点についてとくに職権を乱用したとは言えない。

あの例においては軽くではあれ抵抗をしたということでセクハラと見るのが妥当であって、新たな基準を出したところでそれ以上に意味はないですが、事前の確認もなく家に来たとなれば無理矢理部屋の中に入ってきたわけじゃなくても、それだけでアウトでいいでしょう。

あるいは「昇進させるからつきあえ」と迫ったり、「応じないと解雇するぞ」と、最初から業務に関わる利益、不利益を条件に迫るケースでは、それ自体が不当であり、不正であると言えますから、拒否の意思表示を待たずしてセクハラなのだとしていいのではなかろうか。

職務上の特権を使って、そうでなければ起こりにくい状況で性的な要求をすることや、対象者の職務上の利益・不利益と交換に性的要求をすることは、その対象の意思を問わずセクハラ」といったものになりましょうか。

そういった特権や地位を利用したものではない性的要求や誘いかけについては、拒否して以降繰り返されて初めてセクハラになるという二種の基準です。

事実、こういう考えに基づいているガイドラインや規則があります。

これは私もありだと思うのですが、特権や地位を利用したわけではなく、たとえ人事権を持つ上司であろうとも、通常ありえる状況で、ただ「セックスしようぜ」と言っただけで拒否の過程もなしにセクハラであると決めつけたり、ひとたび合意をしてセックスをして、あとになって「セクハラです」と言うのはなし。「断れませんでした」もなし。

※SSはミシガン大学。ストリートビューより。この大学のセクハラについてのページを見ていたものですから。全部読むのは大変で、本文には反映しませんでしたが、ここも二本立ての基準になっていると思われます。

 

 

人事院の指針

 

vivanon_sentence「Unwelcome」の意味を日本語としてわかりやすく説明しているのは人事院の「懲戒処分の指針について」です(以下、「人事院処分指針」。「セクハラとアルハラ—下戸による酒飲み擁護 11」に出ているのは古いヴァージョンです)。

 

 

(13) セクシュアル・ハラスメント(他の者を不快にさせる職場における性的な言動及び他の職員を不快にさせる職場外における性的な言動)

ア 暴行若しくは脅迫を用いてわいせつな行為をし、又は職場における上司・部下等の関係に基づく影響力を用いることにより強いて性的関係を結び若しくはわいせつな行為をした職員は、免職又は停職とする。

イ 相手の意に反することを認識の上で、わいせつな言辞、性的な内容の電話、性的な内容の手紙・電子メールの送付、身体的接触、つきまとい等の性的な言動(以下「わいせつな言辞等の性的な言動」という。)を繰り返した職員は、停職又は減給とする。この場合においてわいせつな言辞等の性的な言動を執拗に繰り返したことにより相手が強度の心的ストレスの重積による精神疾患に罹患したときは、当該職員は免職又は停職とする。

ウ 相手の意に反することを認識の上で、わいせつな言辞等の性的な言動を行った職員は、減給又は戒告とする。

 

 

暴行若しくは脅迫を用いてわいせつな行為をし」は刑事上の犯罪ですが、それが内部の処分対象になることを定めたものですから、セクハラ自体の定義としては、その部分が余分になっていようかと思います。

 

 

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