松沢呉一のビバノン・ライフ

各大学は京大を見習え!—セクハラって何?[5]-(松沢呉一)-3,119文字-

防止策の定義は判定基準にならない—セクハラって何?[4]」の続きです。

 

 

 

大学のルールと社会のルールはずれていてもいい

 

vivanon_sentence皆さんも確認してみるといいですが、ほとんどの大学が公開しているのは防止のためのガイドラインになっています。人事院で言えば「セクシュアル・ハラスメントの防止等」に相当する文章が公開されているわけです。

前回を読んでいただけるとおわかりになるように、それらの大学が公開しているのは「セクハラとは何か」の厳密な基準ではありません。

防止策としてのガイドラインだけを出しておくと、それがセクハラの判定基準だと誤解するのが出てきて、不特定多数に向けた表現にまで適用できるのだと誤解するのも出てきます。そう思う方が間違っているのですが、ひとたびそう思い込んだ人間は厄介ですから、これに対しても誤解が生じないように防止策をとった方がいい。

しかし、現実に、大学では拒否しなくてもセクハラだと認定することがおそらく多いのだと思います。大学のガイドラインがゆるゆるである理由の二番目はこれです。

学校の場合は、教員と生徒の恋愛、セックスは好ましくないという考え方がありますので、生徒がどう思っていようと、生徒に迫っただけでアウトというルールを導入することに合理的な理由があります。教員や職員間、生徒間は別にして、あからさまな力関係がある教員と生徒という関係においては、です。

ただし、これにも異論は存在します。「生徒が18歳以上であれば、もしくは成人であれば、教員と生徒が恋愛やセックスをする権利はある」という主張です。こちらにも一定の合理性があって、「その関係を禁止にするのが当然なのではないが、禁止したところで反対はできない」と私は考えてます。禁止する大学があっていいのと同時に、禁止しない大学があってもいいってことです。「教員と生徒の恋愛やセックスを禁じるのは不当論」とそれについての私の考えを細かく論じていくと長くなるのでここでは省略しますが、これは面白いテーマなので、各自考えるとよい。

※文科省。ストリートビューより。文科省の写真は撮っているのですが、それを探すよりストリートビューで探す方が早い。

 

 

広くすくいあげるためのゆるい定義だとの説

 

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論はともあれ、大学はあくまで学業の場であるとして、一般社会より言動が制限されることが容認されているでしょう。その考えに基づいて外のルールと違う学内ルールが認められやすいですから、大学内ローカルルールでは特異な内容もありかもしれないですが、社会一般のルールには相応しくありません。

大学のルールは大学内でのみ有効であり、防止策での定義は社会一般の判定基準とは別であることをわかるようにすべきです。

また、人事院が職員を対象にした「セクシュアル・ハラスメントをなくすために職員が認識すべき事項についての指針」で「嫌なことは相手に対して明確に意思表示をすること」と明記していたように、拒否することがセクハラの認定においても重要であることは伝えるべきです。

大学が学生にゆるゆるの定義しか公開していないのは、相談しやすくするためだと言っている大学教員がおりました。たしか何年か前に、Facebookに書き込んできたんじゃなかったかな。

つまり、正確な定義を出すことで「私のはセクハラとは違う」と思ってしまうことを避けるのだと。せっかく相談室を設置したのに、相談がないのでは存在意義がなくなってしまいますからね。

「迫られると断れなくてセックスしてしまう私はどうしたらいいの?」という相談だって受け付ければいいと思いますよ。こういうのはカウンセラーを紹介するか、滝に打たれるように勧めるのが適切であり、これをセクハラとしてすくいあげようとするからおかしなことになる。現実に各大学のガイドラインで言えば、合意の上でセックスしていても、それを不快に思っていたと申告すればセクハラになってしまいます。

また、学内では拒否の意思表示をしていたことが要件にならないのだとしても、仮に裁判になったりすれば重要な意味を持つのですから、そのことに触れるべきです。学内で留めようとしか考えていないからそういう配慮がなくなるのではなかろうか。不祥事は内部で隠密に処理しようとする発想です。

 

 

京大に入ろう

 

vivanon_sentenceざっと見た範囲では京都大学はそこをしっかり伝えています

 

 

 

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