言葉も顔も偽りの風俗嬢—虚言の人々[下]-[ビバノン循環湯 368] (松沢呉一) -4,417文字-
「マスコミ関係の虚言者たち—虚言の人々[1]」の続きです。
風俗嬢の虚言率が高い事情
虚言の人たちはどこにでもいるということを確認した上で、そろそろ風俗嬢の虚言について書くとしよう。
長いつきあいになる風俗嬢とメシを食っていた時にこんなことを言い出した。
「他の業界もそうなのかもしれないけど、風俗嬢に虚言が多いのは事実だよね」
実際のところそうなんである。水商売でもそういうのは多いように思う。
捏造記事で問題になったライターだって、今頃はスナックかヘルスで働いているかもしれない。「私の父親は政治家をやっている」「私はアイドルをやっていた」「この間、大学の先生が客で来て、こんなことを言っていた」とウソ話を客や同僚にしたところで、それだけでクビになるようなことはないからだ。
この世界では自分を守るためのウソ、指名されるためのウソはつきものだ。結婚しているのに「独身」と言ったり、石川県出身なのに神奈川県出身にしたり、28歳なのに23歳にしたり。上手なウソは客を喜ばせる。
つまり、他の業種で虚言をふりまいて働けなくなったりするようなタイプを風俗産業は拾い上げる役割を果たしている。よそでは抑えていたのに、この世界ではウソが問題になりにくいため、虚言体質が表面化しやすい傾向もあるかもしれない。
これは他の精神的な病も同様。鬱に入ると三ヶ月間外に出られなくなるのでは一般の会社や店では雇えないが、風俗産業だったら大丈夫。人数が少なく、ローテーションがピッチリ決まっているタイプの飲み屋だと無理かもしれないけれど。
一般の会社で鬱症状が発現するのが3パーセントいるのだとすると、風俗嬢では10パーセントいたりするってことだ。虚言も一緒。
ただし、同僚にウソを言っては金を借りて返さないといった別の問題が伴うこともあって、こうなるとさすがにいられなくなるのだが、この程度で警察に突き出すようなことはないので、店や場所を移動すればまた働けるのがこの業界だ。
メシを食った彼女がいる店にも今現在虚言癖がいるそうだが、このちょっと前に私は妙な風俗嬢を取材していた。
会話の9割は自慢
彼女はとにかくよくしゃべる。クスリでもやってんじゃないかというくらいの勢いである。あれはクスリではなく情緒不安定のためだろう。たぶん一人になるとさめざめと泣いているようなタイプだと思うんだが、おしゃべりなのはいいとして、人の話もロクに聞かずに早口でまくしたてる。その大半は自慢のため、取材がやりにくい。
「私って、すごいんだよ。どこの店に行ってもナンバーワン。顔もスタイルもサービスもオマンコも完璧って言われるよ」
たしかにルックスはいいし、オッパイもマンコもきれいだが、クセが強すぎて、ナンバーワンになれる素材ではない。一部の人は人生が狂うくらいにハマるタイプだが、残りは引く。よくてナンバー3に入れるかどうかってところだ。
私自身、繰り返し会うには、このノリは辛い。たぶん彼女は自信がなくて、ああやって独り言のように自分を礼賛をして、安心しているのだろう。そういうところまでが透けて見えることも辛い。痛々しいのである。
彼女が渋谷にあるこの店に来て1ヶ月ほどしか経っておらず、その前は、このすぐ近くにあるイメクラに在籍していたと言う。私もよく知っている店だ。
「へえ。あの店のコは整形が多いよね」
「AVのコはみんなしているよ」
みんなってことはないだろうが、その店にはAV嬢が多いのである。
「でも、あの店、店長が本番を迫るので、イヤになって辞めたんだよ。もちろん私はあの店でもナンバーワンだったよ。だって完璧だから」
その店のナンバーワンは別のコである。以前のナンバーワンはよーく知っていて、彼女はAVに出ておらず、整形もしていない。感心するほどの努力家である。
現在のナンバーワンは会ったことはないが、こちらもAV嬢ではない。
ここの店長には何度か会っている。
「店の子に迫るという噂はオレも聞いたことがあるな」
「えっ、店長のこと知っているの?」
「何度か会っているよ」
「まずい。私がこの店に移ったってことを絶対に言わないでね」
「なんで?」
「戻って来いって言われるのはイヤだからさ」
「うん、わかった、わかった」
彼女はすでにこの店のコとして雑誌にも出ているのだから、いまさら何を言っているのかと思いつつ、私は生返事をした。
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