ネーム・ドロッピングと虚言—ウソをつかないではいられない人々[中]-(松沢呉一) -3,194文字-
「ハッタリと虚偽—ウソをつかないではいられない人々[上]」の続きです。
ネーム・ドロッピングとは?
私の場合は仕事柄もあって、文章のハッタリを見抜く能力がおそらく一般の人よりあると思いますし、一般の人より日常的にもそういう人に出会うことが多いと思います。誰も同じくらい出会っているでしょうけど、それを察知することが多いってことです。
見抜くポイントがいくつかあって、そのポイント数が高い人を私は警戒して距離を置くようにしています。
わかりやすいポイントとしては名刺や略歴にズラズラと肩書きや経歴を並べているってことがあります。この程度は誰でも気づくでしょうけど、顕著な特徴であり、広範囲で見られるにもかかわらず、意外に認識されていないのはネーム・ドロッピングです。ネーム・ドロッピングは演技性人格障害の特徴として必ずと言っていいほど取り上げられます。
人格障害とまでは言えないネーム・ドロッピングの方がずっと多いですけど、日本語で人格障害と切り離してネーム・ドロッピングを適切に説明したものがあまり見られない。
日本語版Wikipediaにはネーム・ドロッピングの項目がないですが、英語版Wikipediaにはあって、人格障害のそれとは無関係にネーム・ドロッピングをまとめています。
Amazonでname-dropping、name-dropperを検索すると、複数の本やCDがひっかかることでも、英語ではこの用語が定着していることがわかります。使い方は広くて、自伝の類いにこの言葉を使っているものもあります。ネーム・ドロッピングがどういうものか広く認知されていることを前提にして、著名人との交友録にあえて使用しているのだろうと思います。
上に出したCDは、トリビュートとして名前をジャケットに挙げていて、曲の中にそれらの人を匂わすフレーズを入れていたりするのかも。これはシャレてますわね。
日本語であえて言うなら「虎の威を借る」だが
用例を見てください。ツッコミが入ってますね。英文の用例ではしばしばこのツッコミがパックになっています。ネーム・ドロッピングをやる人がいると、「名前が落ちたよ」と突っ込んだり。そのくらい認知されているってことです。
たしかに「虎の威を借る」くらいしか近い日本語がないのですけど、この言葉は権力者の息子が、親の権力を利用して威張り散らすようなことを典型とするので、同じく他人の権威を利用するのでも、ネーム・ドロッピングは手触りが全然違う。典型的なネーム・ドロッピングは「ほのめかし」であり、人によっては「××さんはねえ」なんて独り言のように言いますから、気づかない人はそれ自体に気づかない。
この用例で、「ジャスティン・ビーバーが家に来るほどの友だち」という内容を間接的に表現しているのがネーム・ドロッピングの特徴をよくとらえています。はっきりと「知り合いだよ」と言う場合でも、知り合いであることを示すことによって自分に注目させることが目的なので、行為としては間接的なものです。
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