松沢呉一のビバノン・ライフ

積極的同意の法制化—スウェーデンの法改正[1]-(松沢呉一)-3,326文字-

※文中に書いているように、正確に把握ができていないながら、スウェーデンの強姦罪改正案は、1月末の段階で立法評議会が反対意見を提出した模様。つまり、カトリーヌ・ドヌーヴが署名した公開書簡でこれを批判していたのは正しかったとスウェーデンの立法評議会が認めたと言えそうです。それ以前から弁護士会もまた反対していたそうなので、欠陥のある法案だったことは間違いないのではなかろうか。ただし、立法評議会は法案を否定する権限はなく、議会はこれを無視することもあるらしいので、どうなるのかはなお不明。

正確にはわからないながら、ざっとそこまでは把握できました。なぜ正確にはわからないのかと言うと、英文の記事では詳しく取り上げられておらず、続報も出ておらず、かといってスウェーデン語の自動翻訳は精度が低いのであります。そういうものとしてお読みください。

 

 

 

スウェーデンのレイプ罪改正

 

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カトリーヌ・ドヌーヴが署名した公開書簡に、スウェーデンの「積極的同意」の法制化が批判的に取り上げられていました(今まで私は「積極的合意」としてましたが、とくにこの場合は「同意」の方が適切かも。「合意」は両者が意見をすり合わせて一致点を見出すこと。同意は片方の提案に対してもう片方が承諾すること。過去に書いたものはそのままにして、今回は「同意」で統一します)。

そんな動きがあるんだと驚いて、検索してみました。

以下は昨年12月21日付けの「ガーディアン」の記事です。

 

 

 

 

この法案が通ると、今年の7月から施行されるとのことですので、遠い将来の話ではありません。

ここでもうひとつ用語について。日本でも強姦罪は「強制性交等罪」になっています。スウェーデンではとっくにそうなっています。かといってなお日本の法律とは違うため、ここではスウェーデンの法律を指すものとして「レイプ罪」としておきます。

簡単にまとめると、今までレイプが成立するためには、脅迫や暴力を伴わない限り、拒否をしたことが要件とされていましたが、この法案ではそれが必要なくなり、セックスをすることにはっきりと同意したことがないとレイプと認められるってことです。

ここでは「積極的同意」(affirmative consent)ではなく、「明白な同意」(explicit consent)になっています。どう違うのかよくわからん。どちらにしても、黙っていることで同意したと見なされる消極的同意、黙示的同意ではなく、あるいは手を握ったら握り返したなどのノンバーバルな同意でもなく、言語的同意が必要ということのようです。

うーん、これはたしかに危惧が生じます。

このことが一定の条件のもとで適用されるのか、あらゆる場面に適用されるのかによって意味合いが大きく違ってきて、それ次第で賛成できるし、それ次第で反対するしかない。

 

 

適用される範囲が限定されているか否か

 

vivanon_sentence現在の日本では、相手が刃物を持っていたとか、「静かにしないと殺すぞ」と脅したといった事実がない限り、旧来の強姦罪や現・強制性交等罪が成立するためには、言葉や態度によって拒否をしたことを被害者が証明しなければなりません。誰も来そうにない夜道で襲われて、抵抗をすると殺されるかもしれないと思って従ってしまった場合は強制性交と見なされないわけです。この部分を救済するのはわかります。

そのためには、拒否をしなくても犯罪が成立する状況を限定すればいい。これはセクハラにおいても、拒否を必要としないケースを設定する考え方と同じです。たとえば「拒否をすることで相手がやめることや助けに来てくれる人がいることが期待できないと判断できる場合」といった条件をつければいい。

SPUTNIK日本の記事によると、「恋人や夫婦にも適用される」ということですが、こういう関係でもスウェーデンの法律ではレイプが成立し得る以上、また、こういった関係であっても、この条件が成立することがあり得る以上、「恋人や夫婦にも適用される」のだとしても、条件がついているか否かはわかりません。

条件つきであれば、恋人や夫婦間においても限定的にしか適用されません。恋人や夫婦になることの同意がなされていれば、以降のセックスも同意があると見なせますが、たとえば過去に抵抗をして殴られたことがあれば、抵抗しても無駄であると思う根拠になります。それのない関係や状況においては、このルールは適用されませんから、いちいち言語的同意を得て記録する必要はない。

もしこういった条件がつかないのであれば、夫婦でも恋人でも、一回一回のセックスに明白な言語的同意を得る必要があり、口頭では「言ってない」としらばっくれることがあるため、文書なり音声なりの記録が必要になります。それがなければレイプです。親告罪でしょうから、「訴えられたら」です(訂正/スウェーデンでは非親告罪らしい)。

スウェーデンでは男女どちらもレイプの加害者、被害者になりえるので、もし同意がないままセックスして、両者がレイプだと主張したらどうするんだろ。条件がついたところで、男女ともに暴力をふるった過去があれば「どうするんだろ」って話にはなりますけど、そういうケースは相当に低くなります。

では、スウェーデンの法案はどうなのか。

 

 

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