松沢呉一のビバノン・ライフ

逸脱するからつながれる——女子大生がヤバイ![2]- (松沢呉一) -2,904文字-

老眼は根性で克服できる—女子大生がヤバイ![1]」の続きです。

 

 

 

私と友だちの秘密

 

vivanon_sentence小沢章友著『女子大生がヤバイ!』で取り上げられている「セフレ」と題された作品は、セフレに「好きな人がいる」と言われて涙を流すというお話。

「それってセフレじゃないんじゃないか。セフレに好きな人がいても問題なし。むしろ厄介なことはそっちが担当してくれるので、ピュアなセフレ関係が築けるだろ」と汚れた私は思いました。

せっかくセフレという素材を出しているのに、内面はありきたりでつまんない作品でしたが、他にいくつか「これはいいな」と思った作品がありました。

もっとも私が気に入ったのはこんな話(オチを書いてしまっているので、これから読む人は飛ばしてください。と書いたところで読むに決まってますが、形だけでも書いておきます)。

「私」と高校時代からの友だちにはそれぞれにカレシがいるのですが、「私」は友だちのカレシのことが好きで、友だちのカレシともセックスをしています。そういうことをしていると、そのうち友だちやカレシにバレて全部失うという教訓譚かと思ったら、友だちも「私」のカレシとセックスをしていて、男たちはそれを知らず、「私」と友だちはそのことを共有しているというオチでした。

最後の方でこのことがわかるようになっていて、構成としてもよくできてました。セフレとは違いますけどね。スワッピングに近いかも。

※全然この著者のことを知りませんでしたが、いっぱい著書があるんですね。

 

 

はみだし者はつながれる

 

vivanon_sentence昔っから男は男同士でつながっているのに、女は男に依存してしまうため、女同士でつながれない、つまり女は友だちになれないと言われますが、この作品では逆転しています。それが成立しているのは、社会が求める女の性のありようから逸脱しているからです。規範から逸脱した女たちは横につながれるのであります。

私の知っている範囲でも、逸脱した女たちはつながりが強い傾向があります。女だけじゃなく、イタリアのマフィアも日本のヤクザも結束が強いですしね。

多数の生徒は現実の生活においても、意識においても女子大という枠組みの中にいるのでしょうけど、一部ではあれ、こういうことが書き切れる生徒もいるのです。頼もしい。

ここには書かれていない、その先では、男同士も実は情報を共有していたことがわかって、「なーんだ、だったら4Pしよう」というハッピーエンドもまたよし。

しかし、この作品も著者は気になって、これを書いた学生に聞いたら(他の生徒にはわからないところでしょうが)、「ノンフィクションです」と答えたとのこと。これをやってはダメだと思うなあ。「あれはよくできていた」でいいのです。そう言いつつも、私は、避妊はどうしているのか気になったんですけど、創作であっても、仮想の登場人物がどうしているのか考えるってもんです。この関係を維持するために、全員コンドームをつけていると見た。

ちなみにこの講師の行動は、たいていの大学のガイドラインではセクハラです。作品として書かれたものをその範囲で論じるのは講師の役割ですが、それが本当の話かどうかを聞くのはプライバシーに踏み込むことです。しかし、聞かれた学生は拒否していないので、私の基準ではセクハラではありません。セクハラではないですが、前回書いた理由から、やるべきではないと感じます。

 

 

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