松沢呉一のビバノン・ライフ

「積極的同意」のルールを再確認—スウェーデンの法改正[2]-(松沢呉一)-2,822文字-

積極的同意の法制化—スウェーデンの法改正[1]」の続きです。

 

 

 

おさらい

 

vivanon_sentence積極的合意-yes means yes」は長くて、全部読んだ人はほとんどいないでしょう。PVが少なかったシリーズです。

このルールは意思表示ができることが前提の社会から始まったものであり、ひとたび合意された意思は絶対ですから、「おっぱい募金」の時がそうであったように、いくら意思表示しても、「言わされているのだ」「本人はそう思っていても、社会に強制されているのだ」なんて、平気で女の意思表示を踏みにじる糞がいっぱいいるこの国には土台馴染みにくいものです。「女の意思表示は信用できない」「女は一人で決断して意思表示することはできない」「女は子どもと同じ扱いをすべき」と信じているパターナリズムと対峙する側面のあるルールですので、糞どもには居心地の悪い社会になりかねない。

そこがこのルールの難しさであり、面白さでもあるのですが、これについて書いている日本のメディアは少ないし、興味を抱く個人も少ないと思います。

むしろ、「積極的同意」のルールに対する私の食いつき方が異常だったかもしれない。うまく使えば一定の効果が期待できます。そこに私は興味を抱き、なおかつルールをシュミレーションするのが好きなので、つい深入りしたのですけど、私のシミュレーションでも明らかにしたように、ひとつ間違えると大変危険なルールですから、取り扱い注意です。

以下、改めて簡単にまとめます。どうせ今回も読む人は少ないでしょうけど、安易にこれに乗っかる人たちが出てきた時に批判できるようにしておいた方がいいと思います。それと同時に、前に書いたことで、「これは違うな」と思ったことがあるので、それを修正しておきます。

なお、ここに書いているのはあくまで米国でのルールであり、スウェーデンの法改正とはひとまず別のものとしてとらえておいてください。また、米国での法も日本とは違うので、ここでも「レイプ」という言葉で統一しておきます。

※図版はスウェーデンの法改正案を伝えるDaily Mail

 

 

米国における「積極的同意」のルール

 

vivanon_sentence米国の大学で実施され、州によっては州法で定められた「積極的同意」のルール(あの時点では州法も、あくまでその州の大学に適用される法律で、大学外に適用されるものではなかったはず)は、拒否したか否かが判断の基準になるのではなく、同意がなかったことがレイプであることの判断の基準になります。

大きな声を出したり物音がした場合、第三者がそれを聞くことがありますし、破れた服や、擦り傷、内出血などの物理的痕跡も残りますから、拒否したこと、抵抗したことは客観的に証明が可能なのに対して、口頭で同意したことを第三者が認識することは難しく、よって「同意していない」と覆された場合のことを考えると、セックスをする際には文書や音声で記録を残すしかなくなるのがこのルールです。

米国の大学においては、個人の判断でそうするしかないのでなく、最初から記録を残すことが前提になっているはずです。口頭での同意があっても無効なのです。その結果、実質的にいつ誰とセックスしたのかの記録がいちいち残されていくわけです。

公にはしにくい関係でのセックス、セックスをしたこと自体が不都合な立場の人たちは記録を残せないので、つねにレイプ犯として訴えられるリスクを負うことになります。芸能人などの著名人、不倫関係でセックスをしている人たち、セックス自体が都合の悪い宗教者、複数の相手とセックスをしている人たちなどです。男側がそれを言い立てるケースはほとんどないでしょうから、そのリスクはほぼ男が負います。

※図版はロイターの記事。オランダに新しいアプリができたことを伝えています。下のSSがそれ。

 

 

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