「レイプ帝国」スウェーデンの事情—スウェーデンの法改正[4]-(松沢呉一)-4,594文字-
「「イエスはイエス」の社会に—スウェーデンの法改正[3]」の続きです。
人口当たりのレイプ件数でスウェーデンが先進国トップ
話はスウェーデンに戻ります。まずスウェーデン特有の事情がありそうなので、それに触れておきます。最初に断っておきますが、スウェーデンの特色について触れてはいても、その理由についてはデータを眺めただけではとうてい見極めることはできず、最初から正確な分析は期待しないでいただきたい。
スウェーデンは「レイプ帝国」なる汚名を着せられています。人口比で見た時に、先進国の中でレイプ件数が抜きん出て多い国です。時期による変動はあるのですが、どのデータを見ても人口当たりの件数は世界で第一位から第三位に入っていて、先進国の中ではつねにトップです。
しかし、一般に犯罪発生率の数字は統計の方法、法律上の定義、社会環境などによって大きく変動するのが常であり、これもその例外ではありません。
その事情はさまざまなところで解説されており、それらの理由が英語版Wikipediaの「Rape in Sweden」にコンパクトにまとめられています。十分ではないので、こちらで補足しつつ解説しておきます。私も十分に理解しているとは言えないですけど。
これによると、スウェーデンでは、第一に統計的に数字が多くなりやすいことが挙げられています。被害が警察に申告された時点での数を件数としている。認知件数がそのまま犯罪件数になっているわけです。
しかし、他国はすべて検挙件数や起訴件数なのに、スウェーデンだけが認知件数ということは考えにくく、日本でも認知件数を発生件数として公表しています(把握されない犯罪、つまり暗数があるため、これを発生件数とすることに対しての批判が出ていますが)。
国際比較においてズレが生じるのは、それよりも被害届受理の基準の違いだろうと思われます。事実、スウェーデンでは起訴されないケース、起訴されても有罪にならないケースが多いのです。認知件数を犯罪件数とする場合、被害届受理の基準によって件数が違ってきて、日本では事件化できそうにないものは警察が被害届を受け取らない傾向が強く、そのため認知件数が低く抑えられ、検挙率の高さにもなっていますが、スウェーデンではその逆になっている可能性がありそうです。そうだとすれば、そこに決定的な違いが生じます。
また、同じ人物による回数をすべてカウントしているとあります。親子や夫婦の場合は数年間に及ぶこともあって、同じ組み合わせで、件数が二桁になることもあるわけです。なんでそんなカウントをしているのかは不明。
法律が違う
第二に法的な要因が挙げられています。まずスウェーデンではレイプの定義が広い。相手が眠っている、意識がない、酔っているという状態でもレイプになる。日本ではこれまでは準強姦、現在は準強制性交等です。
しかし、日本でも、これまで準強姦は強姦に含まれて数字が出されてます。たとえば犯罪白書でも「強姦(刑法177条),準強姦(同法178条2項)及び集団強姦(同法178条の2)について,これらの致死傷事件(同法181条2項及び3項)及び未遂を含めた認知件数が計上されている」(平成29年度版)と説明されています。これまで警察庁、法務省が出してきた報告書についてはスウェーデンと日本は同じ基準です。他の国もそうなんじゃなかろうか。
日本では強制性交等に改正されたことで、いままで強制わいせつとされていたことが強制性交等とされる部分が出てきて、その部分については今後日本でも数値が増えるでしょうが、先進国ではすでにそうなっている国が多いので、このことがことさらスウェーデンの数値を上げているとは思いにくい。
法改正をして定義を広めると件数が増えることがあるのは当然ですが、そのことが報じられることで申告数が増える関係にあります。むしろその方が大きな理由になっているケースもありそうで、国によっては法改正の直後には数字が上がって、以降また下がる現象も見られます。その点、スウェーデンでは繰り返し法改正し、それが報道されるために数が増えると書かれたものもあります。しかし、それがそうも長期にわたって続き得るのかどうかはわかりません。
スウェーデンのレイプ罪は非親告罪?
その法改正の内容において決定的なのはスウェーデンでは現在レイプ罪は非親告罪であるらしきことです。もしそうであるなら、これが数値を増やしていることが容易に想像できます。ただし、詳細はわかりませんでした。
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