松沢呉一のビバノン・ライフ

買春処罰はセックスワーカーの負担を増大させた—スウェーデンの法改正[6]-(松沢呉一)-3,334文字-

スウェーデン議会の暴走—スウェーデンの法改正[5]」の続きです。

 

 

 

売春側を捕まえることに比して客側は捕まえにくい

 

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前回確認したように、警察の捜査が面倒なものはザル法になりやすい。買春処罰も運用は面倒です。個人でも店でも同じです。

売春側の勧誘を処罰する法律では、勧誘行為が完了すれば事足りて、実際に売買春が行われる必要はありません。

しかし、勧誘されたことを処罰する法律は難しい。声をかけられただけで逮捕なんて法律はまずいでしょ。少なくとも売買春の契約が口頭で完了する必要があるわけですが、この段階で逮捕しても立件できないケースが連発します。

客を参考人で取り調べる場合、客は自分の罪になるわけではないですから、とっとと帰りたくてペラペラしゃべるのが多いでしょう。しかし、買春処罰の取り調べでは客は被疑者であり、犯罪者になることを避けるため、噓のひとつも言います。「いやいやいや、道を聞いていただけだ」「ただのナンパで、金のことなんて話していない」「飲みに行こうと誘っていただけだ」と。

街娼は自分の罪になるわけではないですが、客のことを守る側になります。客を警察に売り渡すようなことをしたら、このあと客になってくれず、それが噂になって他の客も寄りつかない。「道を聞かれたので教えていただけですよ」「ただのナンパで、お金のことなんて話していない」「私は酒を飲まないので断っていたところです」と言いますよ。

ここで女の捜査官が街娼のふりをして客待ちをすると、違法な囮操作になってしまい、犯罪としては成立しなくなります。男の捜査官が通行人のふりをして声をかけられるのを待って売防法の勧誘罪を適用するのは合法であることとは違うのです(存在しなかったはずの犯罪を作り出す捜査は違法)。

店の中で行為が行われている場合は、店の外で待って客を引っ張ることができるので、言い逃れが難しくなりますが、街娼の場合は客の車に乗って遠くのホテルまで行かれると尾行までしなければならなくなります。

客を捕まえるのは難しい。

ルールを作る場合はこういうシュミレーションが必須です。実効性の薄い法律を作ってはいけない。警察力を増強する結果になるだけです。

※Googleストリートビューより、スウェーデンの国会議事堂riksdagshuset

 

 

セックスワーカーは客を守る仕事が増えた

 

vivanon_sentenceめったなことでは逮捕されないザル法なのだから、無視すればいいということにはならないのがまた面倒です。客はいつでも逮捕されるリスクがある以上はそれを回避する。

臆病な人たちは客にならなくなって、客が減ってセックスワーカーが困窮するのは、セックスワーク自体を否定し、売春するものたちを蔑視、敵視して法を作る人たちの思惑通りとして、これだけでは終わらない。セックスワーカーたちは客の安全を守るしかないわけです。客は減るわ、手間が増えるわで踏んだり蹴ったり。

現実にどういうことが起きているのか。

街娼がいるエリアに客は車でやってきます。よく映画で描かれているように、運転手は車の窓を開けて交渉をします。ここで交渉が成立すれば車に乗り込んで車の中でしたり、ホテルに行ったり。

この交渉時に街娼はただ交渉するのでなく、顔を見て客の見極めをします。過去にイヤな経験をした客ではないか、クスリをやっていないか等をチェックして、危なそうな客だと断る。交渉か成立すると、ここで金を受け取り、金を払わないで逃げられることを防止します。

ところが、買春処罰の導入により、近隣に警察が張っているかもしれないので、客はその姿をできるだけ見られたくないし、ナンバーも見られたくない。その捜査のために張っているのではなくても、警察が近くにいれば黙っていないでしょう。

街娼もそれに協力して、その場での交渉を避けて車に乗ってから交渉をすることになります。

 

 

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