松沢呉一のビバノン・ライフ

「イエスはイエス」の社会に—スウェーデンの法改正[3]-(松沢呉一)-3,436文字-

「積極的同意」のルールを再確認—スウェーデンの法改正[2]」の続きです。

 

 

 

おそらく学内セックス禁止というルールは作りにくい

 

vivanon_sentence前回を読むと、ひどい話のようでしょ。しかし、大学内に限定するのであれば私は賛成。少なくとも反対はしない。日本においてもです。

大学のような狭いエリアに限定した時は、両者が話し合って学外ですることによって、これを回避できます。大学としては学内のトラブルを減らしたいのですから、そうしてくれればそれに越したことはない。

だったら、「学内セックス禁止」にしてしまえばよさそうですし、実際、日本だったら簡単にそうしてしまいそうです。

セックスにおける積極的合意-yes means yesの意義と実現性 2」に、米国においても「大学はセックスをする場所ではないという前提がある」と書きましたが、おそらくここは間違っていたように思います。そのことを説明しておきます。

セックス禁止にすることに抵抗が生ずる文化圏もあるのだと思います。なぜかというと、大学は公共圏だからです。

公共圏だからセックスしてはいけないのではなくて、公共の場では公然わいせつなどにならない限り、セックスを禁じることは難しい。たとえば渋谷区が神泉町ではセックス禁止なんて条例を作れないのと同じです。

大学は学業や研究をする場でありつつ、中に寮があったりしますし、授業が終わっても、授業がない日でも、いていい空間です。大学によってはキャンパス内を公道が走っていて、その両者はフェンスで区切られていなかったりもします。

学生や教員だけじゃなく、外部の人も近道をするために中を通ったりもするし、学食なども利用できます。講演会や市民講座みたいなものも開かれています。教員次第では授業も聴講できます。女子大は閉鎖的ですから、公共の場であることを放棄していますが、多くの大学ではそうなっています。

とりわけ不便な場所にある大学では、中に生協やコンビニがあり、買物もできれば食事もできる。寮があればそこに住む。日本でもそういう大学があります。米国であれば店のある場所まで徒歩では行けないような大学もあるでしょう。生活は大学内で完結するため、プライバシーも存在する場であり、セックスはプライバシーに属する行為ですから、学校はそこに踏み込みにくいのだろうと想像します。

そもそも大学のどこでできるんかって話ですが、寮がなくても、学内に車で入れる大学もあるでしょう。車があればそこはラブホと化します。グランドの脇にはシャワールームがありますし、クラブハウスもあります。その気になればどこででも。

※ストリートビューよりアラスカ大学。青姦し放題。

 

 

セックスする自由は保証されなければならない

 

vivanon_sentenceさまざまな制約がつくとは言え、国によっては刑務所に入っても面会者とセックスができたりします。いかに身体を拘束していても、風呂に入ったり、食事をしたり、病気の治療をしたりできるのと同様に、セックスの権利は奪えないという発想でしょう。子どもを作ることも可能なはずで、子孫を残すことの権利とも関わっていそうです。

あるいは軍隊の中でも、休みの日にはセックスをしてよく、軍隊内恋愛、軍隊内セックスも禁止していない国もあるはずです。米軍はそうじゃなかろうか。

プライバシーの領域に踏み込んで、同性愛者は軍隊に入れないという規則はおかしい。野蛮です。

できるのは上官が部下に性的行為を強いることの禁止や勤務時間内でのセックス禁止までです。基地は公共圏ではないので、基地内のセックス禁止もできるでしょうけど、そこどまり。

公共圏たる大学では、セックス禁止はできないとして、学内での強姦事件、強制わいせつ事件、あるいはその冤罪を防ぐには、積極的合意のルールが有効ですし、学外でやるという選択肢があるからこそ成立するルールです。

大学によっては同意によるセックスだったとしても、同意の記録を残していないと、両者とも処分という厳しいルールになっていたはず。本当はセックス自体を禁止したいんでしょうけど、それはしない。

日本でこれを導入する大学はまずないでしょうが、やればいいと思うんですよ。大学は公共圏であること、同時にセックスはプライバシーに属するものであり、禁止することができないことをはっきりさせることができますから。

少なくとも、「大学でセックス禁止は当たり前だろ」と思ってしまう国の私としては、むしろ「積極的同意」のルールを大学に導入することは一歩前進に見えてしまいます。反対しませんよ。

※ストリートビューよりストックホルム大学。青姦し放題

 

 

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