松沢呉一のビバノン・ライフ

成績と個性とヒゲを伸ばすなら女子校—毛から世界を見る 57- (松沢呉一) -3,044文字-

ヒゲの生えたヘルス嬢—毛から世界を見る 56」の続きです。

 

 

 

なにで剃ったらいいんですか?

 

vivanon_sentence「ヒゲ風俗嬢」はさらにこう聞いてきました。

「なにで剃ればいいんですか」

「女性用の電動シェーバーもあるけど、電動シェーバーだとかえって産毛は剃りにくいかもね。マツキヨやコンビニで売っている普通のカミソリでいいんじゃないか。脇毛を剃るカミソリでもいいし、父ちゃんが使っているカミソリでもいいと思うよ」

「それはイヤです。買ってきます」

なんで風俗嬢の取材で産毛の剃り方を伝授しているのかわからないですが、彼女は恥ずかしがるでもなく、「そうなんだ」といったふうで素直に受け取ってました。

この時は年末で、彼女はこの年高校を卒業して、コンビニでバイトしながら学校に通っていたのですが、翌年から授業料を親に頼らず、自分で出したいためにこのヘルスで働き出して1ヶ月程度でした。

20年ほど経っているのに、なぜこんなことまで覚えているのかと言えば、原稿に書いていたからです。読み直しました。

とくにヘルスの暗めの照明だと、よく見ないとわからず、わかっても言いにくい人もいそうで、客に指摘されたことがなかったのでしょう。店のスタッフが面接の時に注意してもよさそうですけど、客からクレームがついたわけでもなく、そこまで気にしないスタッフもいそうです。

もしかすっと処女か処女に近いかもしれない。営業用の「ウソ処女」もいますけど、本物の処女もヘルスにはいます。原稿には書いていなかったので、はっきりとは覚えてはいないのですが、その時もそう思って聞いたら、「処女ではない」と言っていたようにも思います。相手も同世代だと、産毛までは気にせず、気にしても言えないか。

※この女性用電動シェーバーは「眉毛・ヒゲ・産毛処理」となっております。

 

 

18年間放置してきた事情

 

vivanon_sentenceこの時はたしか飛び込みでいきなり話を聞かせてもらったはずです。そのため、10分程度話をしただけで慌ただしく出てきたため、毛の話ばっかりしているわけにもいかず、ヒゲを放置していた事情も詳しく聞けませんでした。

それだけにずっと気になっていたのです。自分でヒゲを剃る時はいつも彼女のことを思い出し、「今は剃っているのかなあ」と感慨に耽ってました。相当に誇張してみました。

「最近お手入れをしていないんです」「我家の家訓です」「産毛も私ですから、生えてくるものを簡単には剃りたくないんです」とかならまだわかります。「乳毛は幸運の印だから」として伸ばしている男もいますしね。つまり、わかっていながら伸ばしているんだったら、意味がよくわからなくても落ち着く。

しかし、産毛を剃ることを18歳になるまで知らなかったのが不思議でした。鏡をジックリ見れば自分で気づくでしょうけど、化粧をしないのであれば頻繁には鏡を見ないとしてもおかしくはない。彼女は化粧っけがまったくなかったですしね。顔に無頓着であれば気づいたところでどうとも思わないかもしれない。

私が顔に生えてくる無駄毛を剃るようになったのは誰かに言われてではなく、自分で気づいてですけど、男はヒゲを剃るため、ついでに他も剃れます。ヒゲを剃っているのに、今さら「無駄毛を剃ると濃くなるんじゃないか」なんて気にすることもない。

女子だと「わざわざ」ということになるので、剃るハードルが高い。たしか彼女は脇毛は剃っていると言っていたはずですけど、脇を剃ったカミソリを顔に当てるのは、トイレでウンコしている時にトイレットペーパーで鼻をかむのと同じくらいの抵抗感がある人もいそうで、脇毛を剃る時に、「ついでにヒゲも」とはならないのもわからないではない。

なお、私はウンコしながらトイレットペーパーで鼻をかみますけど、ケツ毛を剃ったカミソリではヒゲを剃らないようにしています。

※この本、面白そう。Kindle本の表紙って、手間をかけていないため、文字のバランスや書体の選択がチープじゃね。

 

 

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