松沢呉一のビバノン・ライフ

理解ある家族の傾向—エロの仕事がバレた時(3)-[ビバノン循環湯 374] (松沢呉一)-3,199文字-

親バレしたら姉も告白—エロの仕事がバレた時(2)」の続きです。

 

 

 

弟バレ

 

vivanon_sentence姉や妹と同様、弟もわりと理解がある。理解があるというより、女として見ることがないので、何をしてようがどうでもいい。ましてこづかいをくれれば協力くらいするってもんだろう。

ある地方都市出身の風俗嬢は、全国誌には出ていないのだが、東京には友だちがあまりいないこともあって、風俗誌に顔を出していた。

ただし、親族が東京に一人だけいる。弟だ。弟は堅物で風俗誌を見るはずもない。それまでバレたことはないのをいいことに安心しきっていたのだが、ある時、弟から「確認したいことがある」と留守電に入っていた。なんだろうと思いつつ、ほっといたのだが、繰り返し留守電が入っていて、悪い予感がしつつ、電話した。

「ねえちゃん、ヘルスで働いてないか」

「何言ってんの?」

「雑誌で見たよ」

「なんでそんなもんを見てんの?」

彼はマスコミ関係の仕事をしている。そのため、スポーツ新聞や夕刊紙を含めて新聞は会社で一通り見る。そのことを考えないわけではなかったが、彼女としてはスポーツ紙や夕刊紙の広告だったらモノクロだし、写真が小さいため、バレないだろうと思っていた。

私自身、新聞広告の写真でバレた話は今まで聞いたことがないのだが、職業上、さすがに弟は見逃さず、しかも取材力を発揮して風俗誌も買ってきて確認したという。

これで彼女も言い逃れできなくなった。

しかし、彼女自身、二十代後半で、弟も社会人だから、いまさら動揺はせず、「あんまり派手にやって親にバレないようにしろよ」と言ってくれた。

しっかり働いている弟としては、こづかいを求めてきたりはしなかったが、「いざお金に困ったら、ねえちゃんに言えばなんとかしてくれそうだ」とでも考えたのかもしれない。

彼女は無防備すぎるところがあって、このあとさらにミスをやらかしている。

客が弟の会社で働いていることがわかり、「弟も同じ会社です」と口走ってしまったのだ。出身地はすでに教えてあったため、「んっ、××君のおねえさんか」とすぐにバレた。直属の上司だったのだ。彼女としてはデカい会社だと思っていたのだろうが、マスコミ関係の会社としては大きくても、世間一般の大企業に比べると、どこも小さいもんだ。

遅かれ早かれ弟にはバレていたのだろうが、彼女の場合は腹をくくっていて、目的があってやっていることだから、親にバレたところで説得するだけだろう。

※Annibale Carracci「Two Children Teasing a Cat

 

 

兄と妹の特別な関係

 

vivanon_sentenceこれが兄だと、弟とはまったく違う対応になることがある。兄と妹の関係は、父と娘の関係に少し近くて、兄にバレて仕事を辞めることになったという話は時々聞く。

また、妹の側でも、お兄さんにだけはバレたくないということもあるみたい。

「弟は知っているけど、兄には言えない」「母は知っているけど、兄には言えない」というのが現にいるんである。

女王様なんだが、「お兄さんが理想としている妹でありたいから、SMのことだけは言えない」というのがいた。

「お兄さんが理想としている女王様になればいいじゃないか」

「お兄さん、そういう趣味ないよ」

「ないかどうかは聞かなきゃわからん」

「聞けないよ。理解してくれるかもしれないけど、理解してもらえないかもしれないことが恐い」

姉と弟の関係と、兄と妹の関係はあきらかに異質で、妹のいない私にはちょっと理解しがたいところがある。

※George Richmond「Portrait of Two Children

 

 

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