松沢呉一のビバノン・ライフ

奇妙な男の子—ハッテン銭湯(下)-(松沢呉一) -2,798文字-

ハッテンはできなくても銭湯には夢がある—ハッテン銭湯(上)」の続きです。

 

 

 

ある日曜日の午後

 

vivanon_sentence私が今でも気になっている体験。

ある日曜日のこと。まだ明るいうちに銭湯に行きました。初めて行く銭湯です。ここは露天風呂もあって、設備も新しく、混んでいるというほどではありませんが、常時7、8人はいました。

私はいつもかけ湯をして浴槽に入り、体を洗って髪の毛を洗い、また浴槽に入って、ヒゲを剃って踵を削って、最後にもう一度浴槽に入ります。蒸すのが苦手なので、天井の低い銭湯に夏場行く時は最後は熱い湯ではなく、水風呂か冷水シャワーです。

前は二度目のパートで髪の毛を洗うことが多かったのですが、最近頭が悪くなっていて、髪の毛を洗うのを忘れることがあります。そこで最初のパートで体の次に髪の毛を洗うようになり、ヒゲを二度目のパートにずらしたのですが、今度は最初のパートで洗ったのを忘れて、うっかり次のパートでまた洗うことがあります。洗ったかどうかがわからなくなって、洗わないよりはいいのでまた洗うこともよくあります。

その日は日曜日とあって、子どももいます。私は先に露天風呂に入り、洗い場に戻ったら、親子連れは出ていって、入れ替わりに別の親子が入ってきました。

最初のパートで体と髪の毛を洗ってから室内にある大きな浴槽に入りました。室内にはこの広い浴槽以外にもうひとつ浴槽があり、この広い浴槽には私しかいません。

※最近銭湯に貼り出されているポスター。いつ行っても混んでいる一部の銭湯はいいとして、「一人になりたくない日に」というポスターを見て入って、一人だったらどうするよ。口開けはどこもそこそこ人がいますが、遅くなると自分一人しかいないことは珍しくないですから。私はそれも好きですけど。

 

 

近づいてくる少年

 

vivanon_sentenceここの寝風呂に入っていたら、男の子が入ってきました。この浴槽は横長で、壁に沿って寝風呂や座風呂があり、私は浴槽の真ん中辺り寝風呂にいます。

男の子は私から見て左端から湯に入っていたのですが、壁側には入らず、反対側に腰掛けています。つまり、その子は壁を見て入っていて、私と逆向きです。小学校4年生くらいだと思います。子どもだと熱い湯が苦手なのもいて、体を首まで浸かるのがイヤなのかもしれず、腰から下が浸かっている状態です。

そしたら、その子がだんだん私の方に近づいてきます。そのまま私の斜め左前まで来て止まりました。ほとんど正面に近い。この浴槽は広いんですよ。他に誰もいないのだから、普通だったら人がいないところに入ります。

ハッテン銭湯では、こういう行動をとる人がいます。目の前に来る。でも、そんなはずがないじゃないですか。10歳かそこらです。

寝風呂で目をつぶっていたのですが、目を開けるとその子がジッとこっちを見ていて、目が合うと恥ずかしそうに目を逸らします。

なんだろ、この子。早い子はこのくらいでも男が好きなのだと気づくのはいそうですが、その場合、同級生を好きになったり、中学生くらいのおにいちゃんを好きになるってもんじゃないんか。

ノンケでも高校生くらいのおねえさんや、さらには教師に恋心を抱くのもいると思うのですが、この子にとって私はじいちゃんの歳です。ノンケの小学生でばあちゃんの世代を好きになるのはまずいない。もっと大きくなると方向が明確になって、老け専や熟女好きも出てくるわけですけど、この歳でいくらなんでもそれはないだろうと思います。

「死んだじいちゃんにクリソツ」とか「この人、校長先生みたいだな」とか「顔に鼻くそがついているのを注意したいのかな」とか「父ちゃんがよく読んでいるビバノンなんとかの人に似ているな」なんてことかもしれないと、いろいろ考えていたんですが、その時、足が触れました。寝風呂なので、私は前に足を伸ばしていて、その子が動いたためです。すぐにその子は離れたのですが、もしかするとわざとか。

 

 

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