松沢呉一のビバノン・ライフ

脳の性差を過剰に見積もることの危険—男女別学肯定論を検討する(3)-(松沢呉一) -3,383文字-

鴎友学園が偏差値38から脱した理由—男女別学肯定論を検討する(2)」の続きです。

 

 

 

親が可能性を潰す

 

vivanon_sentence私はヘビマップ作りが趣味ですから、子どもたちとよく情報交換をしているわけですが、通報されると困るので、女の子にはめったに声をかけません。ただし、女の子が集団でいる場合や男女混合チームには声をかけます。その状態だと女の子たちも安心なので、好奇心が剥き出しになるのがいて、質問攻めにされたり、なつかれたりします。

しかし、こうなる年齢には上限があります。ヘビが気持ち悪い、怖いと言い出すのは小学校半ば以降です。男の子もそうなんですけど、女の子はとくにそう。小学校の半ばまでは怖がらないし、面白がるのに、あるところから「キャー、怖い」と言い出します。

東京のいくつかの公園には生物館だの環境なんだらだのといった施設があって、子どもたちが生き物について学べるようになっています。

平日の昼間は子どもがおらず、おっさんの私一人がカエルの観察をしていたり、係の人にレクチャーしてもらったりしているのですが、日曜日や夏休みともなると、小学校低学年の女の子たちもいっぱい集まってます。しかし、どこかから好奇心を失うのが多いのです。

爬虫類、両生類、昆虫の類いを気持ち悪く感じるのは学習によるところが大きくて、母親が気持ち悪がれば娘もそれを真似て、内面化していきます。ゴキブリごときでギャーギャー喚く母親が娘の未来を潰すのです。

これ以降、女子が興味を抱いていい生物はペットとして適切とされているイヌやネコや鳥やハムスターだけです。その範囲で生物が好きな女子は「命を大切にする優しい子」とされていて、こうなると、外で飼われているネコが自然界の生物を大量虐殺していることには考えも及ばなくなります。

こうして中学になって生物でカエルの解剖をするとなると、女子は気持ち悪がる。内心気持ち悪くないのだとしても、嬉々として解剖をしていると男子の受けが悪い。「いやん、キモい」と言っていれば男子が代わりにやってくれます。

鴎友学園では、「女子は理系が苦手」という思い込みをまずはずすために中学一年は生物から始める。これは正しいし、女子校だからこそできる正しさです。どこの学校が始めたかわからないですが、他の中高一貫の女子校でも同様のことをやっている学校があります(下に出てきます)。

※Googleストリートビューより鴎友学園脇の緑道。ここ、いいんですよ、ヘビがいそうで。しかし、目撃証言は得られていません。

 

 

女子は理数系が苦手。しかし…

 

vivanon_sentence前回取り上げた2017年10月8日付「日経電子版/ニッケイスタイル」の記事には、吉野明・鴎友学園校長のこんな言葉が紹介されています。

 

 

「理数系では、男子の方が女子よりも先に頭の中で抽象化できるようになるというか、具体的な事例をイメージしなくても理解度が増す傾向にある。例えば、お使いで100円のリンゴを3個買いましたとか、小学校の低学年までは、算数は具体的な例をだしながら授業を展開しますが、高学年になると、もっと抽象化した分数や比、割合が問題に出てくる。そこで行き詰まるのは男子より女子の方が多い。逆に言語系は女子の方が男子よりも早く発達する傾向にある。理系は苦手という意識を持ったまま中学に入学してくる女子生徒がいる。そこで観察や実験など目に見える、生物を主体にして、まず理科嫌いをなくしていこうとしているわけです」と吉野校長は話す。

 

 

これ、完全に私です。鴎友学園に入りたかった。理数系に対する苦手意識が出てきたのは高校に入ってからですが。

高校に入ってしばらくはよかったのですが、どんどん数学がわからなくなってきて、やがて0点を連発するようになります。物理もそうです。「ああ、神童と言われた俺様が0点をとることになろうとは」との焦りもなにもなくて、あるところから理解することを諦め、努力することも放棄しました。私には無理だと。数学や物理の時間は弁当の時間か睡眠時間だと。

なぜ数学がわからなくなったのかについて、まさに私はここにあるような説明をしてました。「3個のリンゴと5個のリンゴを合わせたり、太郎君の家から駅までの距離を計算したり、台形の面積を計算するところまでは具体的なイメージができるので理解できるけど、サイン・コサイン・タンジェリンドリームになんの意味があるんだよ」とプログレ・マニアらしくブーたれてました。

 

 

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