松沢呉一のビバノン・ライフ

フィンランドとの比較—男女別学肯定論を検討する/第二部(1)(松沢呉一) -2,918文字-

「江戸しぐさ」を推奨する別学は無効—男女別学肯定論を検討する(4)」の続編です。

 

 

 

OECDによる学力到達度調査(PISA)を見る

 

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脳の性差を過剰に見積もることの危険—男女別学肯定論を検討する(3)」で、中井俊巳著『なぜ男女別学は子どもを伸ばすのか』について私はこう書きました。

 

 

著者は、別学肯定に結びつけられるものであれば矛盾を来しても取り入れているとしか思えません。こういうことをやっている『なぜ男女別学は子どもを伸ばすのか』では、肯定的データばかりを集めていて、否定的データがあったとしても取り上げないような操作をしているのではないかとの疑いまで抱いてしまい、ここはさらに信頼できるもので確認する必要があります。

 

 

「江戸しぐさ」を推奨する別学は無効—男女別学肯定論を検討する(4)」で見たように、この本が信頼できないことはすでに確定かと思いますが、江戸しぐさをヨイショしたことを大いに反省して、自己批判の文章をどっかに公表しているかもしれないので、ここだけを取り上げて、すべてを否定するのはよくない。

そこで、もう少し調べてみましたさ。

この本にはしばしばOECDによる学力到達度調査(PISA)が出てきます。日本はゆとり教育で順位が落ちただの、読解力が落ちているだのと発表されるたびに騒がれる調査です。

たとえばこんな文章が出てきます。

 

 

男女では学習態度が違います。それは日本だけのことではありません。学力世界一と言われるフィンランドの子どもたちも同様です。

フィンランドの子どもたちは、二〇〇〇年、二〇〇三年、二〇〇六年のPISA調査で世界トップレベルの学力を身につけていることがわかりました。また、フィンランドでは、学校間の学力差は少なく、その点で高い評価を受けています。しかし、このフィンランドの子どもたちでも、男女の学力差が大きいのです。

二〇〇〇年のPISA調査の結果によると、総合的には女子の方が成績は良く、特に読解力の得点の男女差では、五一点(OECDの平均の男女差は三二点、日本は三〇点)でした。これは世界トップレベルの男女差です。

 

 

この男女差は学習態度の違いにあるとして、橋本紀子著『フィンランドのジェンダー・セクシュアリティと教育』から、フィンランド国立教育局のリトヴァ・ヤックシッヴォネン氏に聞いた言葉を引用しています。

 

 

「フィンランドの場合、女子は先生に言われたルールどおりに勉強するが、男子はそういうことは苦手で、あまり言うとおりにやらない。だから、成績は女子の方がよくなる」

 

 

これを読むと、男女は違うからフィンランドでも別学教育をやって、世界一の学力を達成したのだと読めてしまいます。私もうっかりそう読んでしまいそうになりました。しかし、北欧諸国で政府が男女別学を推進しているなんてことは考えにくいので、ここの判断はペンディングにしてました。

 

 

フィンランドの教育と比較する

 

vivanon_sentence橋本紀子著『フィンランドのジェンダー・セクシュアリティと教育』を読むのが筋ですけど、新書ではないため、勘で読めません。電車の中で老眼鏡をするのが面倒なので、堀内都喜子著『フィンランド豊かさのメソッド』(集英社新書)を勘で読みました。

全然話が違いました。180度違うのです。中井俊巳氏はPISAで世界トップレベルの国という箔を利用して持論を強化しようとしたようですが、フィンランドの教育は中井氏の論を木っ端微塵に打ち砕くものです。

この場合、フィンランドではなぜその男女差が問題にならないのかを説明した上で、対して日本ではなぜその差を前提にして別学が有効であるのかまでを説明しているならいいとして、それなくして、この言葉を利用するのはクズすぎます。

以下、詳しく見ていきますが、フィンランドには女子校は存在しません。男子校も存在しません。すべて共学であり、それを成立させる社会が学力を高めているのです。

「江戸しぐさ」推奨の点だけでなく、中井俊巳著『なぜ男女別学は子どもを伸ばすのか』は信用できない本であると結論づけてよさそうです。

 

 

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