松沢呉一のビバノン・ライフ

早大西早稲田キャンパスへ—男女別学肯定論を検討する/第三部(1)-(松沢呉一)-2,890文字-

 

 

別学・共学論争

 

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「「私」を主語にできない問題」シリーズや「セックスワークにおけるフェミニズム内の対立」に登場した『読む辞典—女性学』を読み始めたきっかけは女子教育についての議論を知りたかったからです。

おおまかではあれ、国内のことはわかったので、海外のことを知りたい。どこの国でもよかったのですが、たまたま手にしたこの本の目次を見たら、「教育と社会の受け入れ」という項がありました。2001年の本なので、ちょっと古いのですけど、普遍性のありそうな内容だったので購入しました。

タイトルを出していないですが、女子教育についてこの本で知ったことは「パターナリズムが可能性を潰す—男女別学肯定論を検討する(1)」に反映されています。

フランスでもかつては男女別学が多かったのですが、1970年代には共学が一般化しています。にもかかわらず、女子の進路は引続きサービス、販売、教育、医療関係の仕事に制限されてしまう。医療関係は医師ではなく、看護師等です。

成績がよくてもそれを克服できない理由は、進路決定のプロセスにあるのだとしています。別学から共学になっても、その部分は変わらなかったのです。

これに限らず、どの本を見ても、だいたいそういう説明になってます。

当初私は半信半疑でしたが、「偏差値高い系」女子校の数字を見たら、意識しにくいところで男女格差が導かれていることを認めざるを得なくなりました。本人さえもバイアスに気づけずに自ら性別に規定された進路を選択しているのです。

「理系率が上がる」「社会科学系学部の選択が増える(文学や語学系の選択が減る)」「結果、女子大が選択肢から外れる」という傾向が今まで挙げてきた「偏差値高い系」の女子校ではきれいに見てとれます。変えられるのです。だったら変えた方がいい。

本人の決定は尊重すべきですから、その決定過程をフラットにしていくってことです。クオータ制ではなく、答えはこちらだと確信しています。

※写真は以下に出てくる早稲田大学西早稲田キャンパスの反対側にある学習院女子の入口に咲く桜。入学式のインスタ映え用。

 

 

男女共同参画でも議論が伯仲

 

vivanon_sentence男女共同参画」の項目では男女の「数字的平等」が達成されることによって男女格差がなくなるのか否かが論じられてまして、男女共学を実践してなお結局不平等が再生産されることが指摘されており、そこに議論が起きています。

 

 

男女共同参画をテーマとして、いくつかの論争が登場したが、そのひとつが、この最後の論点(松沢注:分離・排除によって男女格差がこれまで維持されてきたが、分離・排除が停止したはずの地点から差別がまた再生産されていったという論点)をめぐる位置にある。なにはともあれ、社会の男女共同参画を一般化することを望み、推進しなければならないのか、というわけである。北アメリカの女性研究者たちの一部は、もはやためらうことなく、自分たちは「後方への回帰」の方を選ぶとしている。クラスを男女共学にしても、いささかも女の子たちを周囲の性差別から守ることにはならないし、むしろ、もっとも選別にかかわる科目で、かの女たちが失敗する原因になるのではないか。これら女性研究者たちは、学校という制度を再構築して、男女共学でない空間をつくり出すべきだと提案している。

 

 

「もっとも選別にかかわる科目」というのはたとえば理数系でしょう。日本でも、そのため、国公立には進めない。医者にはなれない。建築家にもなれない。エンジニアにもなれない。

これは北アメリカの例であって、フランスではこういう議論になっておらず、男女共学の上での改善策が出ているとのことです。フィンランド方式と言っていいかもしれない。

データが揃ってないので、はっきりとは言えないですが、バイアスが比較的少ない社会では、共学の中で対応することができる。バイアスが高い社会ではそれに対抗するために別学を求める。ないしは、別学を肯定することで保守勢力にからめとられる可能性がある社会では警戒心から別学を避けるという傾向があるかもしれない。

日本においても、いかに別学にしたところで、宗教道徳に基づいた純潔教育をやったり、良妻賢母教育をやったのでは、無意味な「後方への回帰」ですから、諸手を上げて別学賛成はできないですけど、「偏差値高い系」の女子校に限っては、日本でも再構築がうまくいっているように見えます。日本ではフィンランド方式は無理ですから、引続き偏差値高い系女子校に頑張っていただきましょう。

※早稲田大学西早稲田キャンパス入口

 

 

 

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