松沢呉一のビバノン・ライフ

日本人の4割が「妻は家庭を守るべき」と考えている—勘で読んだ海老原嗣生著『女子のキャリア』(2)- (松沢呉一) -3,171文字-

女を特別扱いすることが男社会を支えている—勘で読んだ海老原嗣生著『女子のキャリア』(1)」の続きです。

 

 

 

たったの30年待てばいい

 

vivanon_sentenceよく日本には女性管理職が少ないと指摘され、事実、それを示す数値が出ていますが、男女が等しく採用され、起用され、企業に残り、役付になってから、さらに10年20年経たないと管理職の数字は変化しない。やはり時間がかかるのです。

女子のキャリア』の著者である海老原嗣生氏は欧米との比較をこう書いています。

 

 

(略)一九五〇年代までどの国においても、男性と同じようにホワイトカラーでバリバリ働く女性は希有な存在でした。

それがアメリカや欧米を皮切りに、一九六〇〜八〇年代に大きく女性の社会進出が始まりました。そう考えると、女性の社会進出は世界全体でもまだたった五〇年余りしかたっていないできごとと言えるでしょう。

(略)日本でも一九九〇年代の後半には本格的に女性の社会進出が始まりました。ということは、アメリカや北欧などの最先端の国と比べてもその差は三〇年ちょっと、その他の多くの欧米諸国と比べたなら二〇年ちょっとしかないのです。

とすると、あと二〇年もすれば日本も現在の欧米並みになっていく。それは間違いのないことです。

 

 

この文章には著者らしさがよく出ています。他の国に比較して20年から30年ちょっとしか変わらないという部分。「20年も30年も違う」のではないのです。長いレンジで考えていくべきであるという発想が根本にあるので、たった20年か30年待てばいいのだと言っています。

あとがきでもこれを繰り返していて、本書で貫かれている著者の要というべき主張です。

 

 

突出して高い「妻は家庭を守るべし」と考える日本の数字

 

vivanon_sentence「日本は遅れているだけで、20年から30年ほど待てばいいだけ」という著者の主張にもデータの裏付けがあります。

内閣府による「男女共同参画社会に関する世論調査」です。

2007年の同調査(この本は2012年発行)で、[「夫は外で働き,妻は家庭を守るべきである」という考え方について,あなたはどうお考えですか]という質問に対して、10.6パーセントが「賛成」、30.7パーセントが「どちらかと言えば賛成」、両者を合わせて41.3パーセントの人が賛成(以下、このふたつの選択肢を合わせて「賛成」と呼ぶ)。性別で見ると、男の45.9パーセント、女の37.3パーセントが賛成です(本書に出ている数字は間違っている可能性があって、ここでは内閣府が公開している数字から拾いました)。

ほんの10年前で、これだけの人が「女は家庭を守るべき」という考えに賛成なのかあ。愕然とする数字です。この数字は「(他人はともかく)自分はそうしたい」「自分はそうしている」「(他の夫婦はともかく)自分は妻にそうさせている」という個人の判断、夫婦の判断に留まるものでなく、「世間一般にそうすべきである」という考え方が反映されたものでしょう。

個人の判断、夫婦の判断としてそう考えるのは自由。結婚するのも、腰掛けで就職するのも、結婚したら家事に専念する専業主婦になるのも自由。その選択は他者に否定されるべきではないのですけど、「世間一般に」というものであれば、この数字はさすがに問題があろうかと思います。

つまりは良妻賢母主義は消えていない。良妻賢母という言葉は古くさいので、「良妻賢母を支持しますか」と聞くと、「しません」になる人もいると思うのですが、実質、これが良妻賢母支持層なのだと言っていいかと思います。男社会は男女がともに作っている構図が数値にも出ていると言っていいでしょう。

世界的に見ても日本はこの数字が飛び抜けて高い。スウェーデンの女性で「賛成」はたったの4パーセントですよ。ドイツ(24.4パーセント)やアメリカ(31.7パーセント)より韓国の方が少なくて、韓国の女性で「賛成」は13.2パーセントです。日本はスウェーデンの10倍近く数字が高く、同じ東アジアでも、韓国の3倍近く数字が高いのです。韓国では梨花女子大が成立しているのに対して、日本は成立させようとさえしてこなかったことがこの数字に出ていそうです。

世の中にはチグハグな人たちがいます。「欧米では〜」と言いながらポルノ解禁を求めようとしない人たちがいるのと同じく、「北欧は素晴らしい」「米国は素晴らしい」と礼讃しながら、良妻賢母を地でいくような生き方をしていたり、良妻賢母に基づく発想を他者に求めていたりするわけですけど、まず変わらなければならないのは自分でしょう。

しかし、これも長い単位の時間で数字を見ると、1992年の同調査では男女の合計で60.1パーセントが「賛成」だったのが、2016年の同調査では40.5パーセントまで落ちています。24年で20パーセント落ちた。劇的な変化と言っていいでしょう。あと20年もすればドイツに、あと30年もすれば韓国に追いつけるかもしれない。半世紀くらいかかるか。

 

 

自然減はここで終りか?

 

vivanon_sentence著者の考え方からすると、そういった数字も社会環境や経済状況が整えば自然と変化していくものであって、焦ることはないということになり、ここまでの数字を見る限り、著者の主張は正しそうです。

しかし、著者はこの本の段階では2016年の数字は当然見てないわけで、この中味を見るとそう言えそうにないのです。

 

 

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