松沢呉一のビバノン・ライフ

カラスはなぜ黒いのか—勘で読んだ松原始著『カラスの教科書』(下)-(松沢呉一)-3,638文字-

トラップによるカラスの捕殺は効果がないらしい—勘で読んだ松原始著『カラスの教科書』(上)」の続きです。

 

 

 

餓死するカラスが大量にいる

 

vivanon_sentence前回書いたような自然界の仕組みを考えた時に、なわばりを確保できていない若いカラスほど飢えていて、毎年、餓死していくのが多数います。いないと困るわけです。

公園を散策していると死にそうなカラスを見かけることがあります。いかにも弱々しくて、すぐには逃げない。飛んでも元気がなくて、ちょっと飛んですぐに落ちる。

そこまで弱っていると、もうトラップにも入れず、そのうち猫にでもやられておしまいでしょうが、トラップに引っかかるのは餌の確保ができにくい若いカラスです。あるいは警戒心の薄いカラスです。

どうせ冬に餌を確保できずに餓死するか、車に衝突するようなカラスですから、人為的にそれを捕まえて殺したところで大勢に影響がない。むしろ早くにライバルが減って、残ったカラスが楽に年越しができるかもしれない。

巣立ちしても、バタバタ死んでいくのですから、トラップで数パーセントを捕まえたところで数は減らない。見つけたら無差別に猟銃で殺す方法であればまだしもとして、トラップの場合はどうせ死ぬカラスを拾うことになる。

猟銃では殺してないですが、木の上の巣を撤去してヒナを捕殺する方法だったら無差別ですから、トラップよりはましです。それでも全体の数字からすると一部にしか過ぎないヒナを殺したところで生き延びる総数は変わらない。

毎年同じエリア内でヒナの9割くらいを無差別に捕まえてやっといくらか減るくらい。環境収容力に余裕ができると、他エリアから流れてくるので、周辺エリアでも同じくらい捕まえないと減らない。親鳥を含めたカラスの8割を捕獲しても、翌年以降何もしなければ数年内に元通り。

著者は研究者ですから、そうだと断定しているのでなく、その可能性があると指摘しているだけです。そうだと断定するには、捕まった個体の年齢などを調べる必要があって、それまではただの可能性。

※カラスの写真が見つからないので、黒い猫の写真。

 

 

動物病院に出ていた貼紙の意味

 

vivanon_sentenceこれも写真を撮っているのですが、見つからないので記憶で書くと、どっかの動物病院に貼紙が出てました。「道に鳥のヒナが落ちていてもそのままにしておくように」と呼び掛ける内容です。近くに巣があって、そこから転落しただけで、移動させると親鳥が助けられなくなるという内容だったと思います。

実際のところ、親鳥が転落したヒナを助けることなんてできないでしょう。どうやったって木の上に引っ張り上げることはできないですから、ひとたび巣から落ちたら死ぬのを待つだけ。

親鳥は助けようとして助けられないのでなく、助けようとは思わないのではないか。しばしば鳥は同時に産まれた数羽の中での生存競争があって、弱い個体は兄弟姉妹によって巣から蹴落とされます。それが習性として組み込まれていて、そうしないとエサが足りなくてすべてが弱い個体になって巣立ちが遅れ、巣立ちできても猫にやられて全滅してしまう。あれは生き残るために必須の間引きなのです。

巣から蹴落とされたヒナを助けて家で育てて、やがて羽ばたいて、ある時、公園にいたら一羽の鳥がやってきて肩にとまり、よく見たらそいつだった、なんてファンタジーは美しいのですけど、環境収容力を考えると、死ぬべき命を救うのは、他の命を危うくすることだったりします。

鳥に限らず、親が育てるのを放棄したために人間が育てたなんて話がよくありますが、時にそれは自然の摂理に反した行為であり、それを自然に戻したためにその分エサが足りず、その個体や別の個体が何匹も死ぬことだってあり得ます。もちろん、それが絶滅に瀕している種だったりすれば助ける意味はあって、助けるべきかどうかはケースバイケースです。

動物病院があの貼紙を出していたのは、持ち込まれるケースがあるためでしょう。んなもん、持ち込まれてもどうしようもないわさ。下手に手を出すと法律に触れますしね。

※カラスの写真が見つからないので、黒い犬の写真。

 

 

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