松沢呉一のビバノン・ライフ

「江戸しぐさ」に加担したメディアの責任—専門家の責任(6)-(松沢呉一)-3,273文字-

大学でメシを食うことの意味—専門家の責任(5)」の続きです。

 

 

 

Googleも呆れる日本の現状

 

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以下はGoogleウェブマスター向け公式ブログ「医療や健康に関連する検索結果の改善について」より。

 

 

現在、毎日数百万件以上の医療や健康に関する日本語のクエリが Google で検索されています。これを分析してみると、医療の専門用語よりも、一般人が日常会話で使うような平易な言葉で情報を探している場合が大半です。日本のウェブには信頼できる医療・健康に関するコンテンツが多数存在していますが、一般ユーザー向けの情報は比較的限られています。

もし、あなたが医療関係者で、一般のユーザーに向けたウェブでの情報発信に携わる機会がありましたら、コンテンツを作る際に、ぜひ、このような一般ユーザーの検索クエリや訪問も考慮に入れてください。ページ内に専門用語が多用されていたら、一般ユーザーが検索でページを見つけることは難しくなるでしょう。内容も分かりづらいかもしれません。

 

 

これは昨年Googleが健康、医療関連の劣化情報に対する新しい取り組みを発表した時のものです。

この取り組みは日本だけだそうです。それだけ情報が劣化している。いいも悪いも、情報はフラットに開かれていた方がよく、あとは利用者が判断するのが好ましいのですが、そうすると劣化情報が上位に来て、銭のためにそういう情報を量産する人々が出てきてしまう。

とりわけ医療に関しては間違った情報はそれこそ命取りです。現に日本ではそうなってしまったため、こういう方法をとるしかない。

もちろん、第一には利用者にリテラシーがないことの問題です。皆が判断できるようになれば、ガセは相手にされなくなる。

しかし、いくら待ってもリテリシーなんてもんはそう簡単には身につかない。日本では百年経っても期待できないので、ここでは力技で対策をとるしかなかったのでしょう。

医療はとくに重大であり、緊急性があるために、こういう措置を講ずるしかなかったのでしょうが、そのジャンルだけでこういうことが起きているわけではありません。

あらゆるところで、フェイクが事実を凌駕し始めています。公的文書を改竄し、存在したものをなかったことにすることが平然と行われています。それが耐えられない人は自殺をするしかない。

これは政治家や官僚の問題だけでないと思います。

※SSは2017年12月6日付Med It Teckの記事より

 

 

メディアも機能しないケース

 

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医療関係の情報は正しいものも出ています。それは製薬会社や医療機関がビジネスとして情報を出しているからです。「それらのすべてが正しいのかどうか」という疑問はここでは置くとして、最低のラインをクリアしている情報が出ています。

それらに対して、Googleは「もっと一般の人たちがわかるような書き方を」と呼びかけました。そんなに難しいものばかりとは思えないですが、子どもや老人でもわかるようにってことでしょう。

そんなことまでGoogleに呼び掛けられなければならないのがこの国の現状。

しかし、生物学や「江戸しぐさ」では、製薬会社、医療機関に相当する組織が存在しない。正しい情報を出すことでストレートに利益を得る企業、機関がないわけです。公的機関としては、厚労省も医療情報を出しているわけですが、「江戸しぐさ」について、文科省はガセ推奨側です。どうにもならん。

大学がその機関になればいいのですが、そんなことはやらない。大学でメシを食っている研究者もやらない。それどころか、法政大学現総長のようにヨイショして、インターネットがその劣化情報を拡散していく。

それを見た無名のネットユーザーたちが指摘しても、なかなか勝てないですよ。

※越川禮子著『暮らしうるおう江戸しぐさ』の版元は朝日新聞社です。

 

 

「食いつく時は軽卒に、反省は慎重に」のメディア

 

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ビジネスとして正しい情報を出す企業、機関がないジャンルにおいては、新聞、雑誌がチェック機能を果たすべきなのですが、「江戸しぐさ」の場合は、読売新聞、朝日新聞、日経新聞などの新聞、講談社、マガジンハウスなどの出版社が与太の拡散をしてきてしまいました。

 

 

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