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松沢呉一のビバノン・ライフ

山田わかの凄まじい婦人参政権否定論—女言葉の一世紀 126-(松沢呉一) -3,030文字-


日本のフェミニズムの問題点は山田わかを読めばわかる—女言葉の一世紀 124」の続きです。

 

 

 

 

個人主義と女権主義を家庭の敵として憎悪

 

vivanon_sentence山田わかは個人主義を否定し、個人主義に基づく女権論も否定しました。

以下は自分の考えと女権論者の違いを述べた部分。

 

 

此の仕事(松沢注:本能の改造)を為すものは父母でありますが、併し、直接の責任者は母であります。なぜなら、本能の改造、則ち本能の教育は生れた瞬間から始められなければならず、生れた瞬間から子供に接近してゐる者は母でありますから。子供に乳房を含ませながら、子供の可能性を認め、善良なる本能を育くみ、不良な本能を押へると云ふ仕事は母でなければ出来ません。全く自分を忘れることの出来る母の愛が無ければ出来ない仕事です。

私の婦人論は此処に立脚したものであります。ですから、世間一般の婦人論が女権拡張、婦人の職業に対する機会均等、つまり婦人自身の利益に終始してゐるのに反して、私の婦人論は家庭中心、母性保護であります。

 

更に、一言述べたいのは、女権主義者の云ふ婦人の自由とか、独立とか云ふものは、今日の法律や習慣が男子に対して許してゐる自由であり、独立であるといふことです。けれども、其の自由と独立を持ってゐる今日の男子の生活が完全に幸福であるかと云ふと、私は、決して、さうでないと思ひます。それならば、婦人が大騒ぎしてそれを得た処が仕方がないと思ひます。

(略)

ですから、女が男性化したり、男が女性かしたりしたのでは円満な関係がなく、女が女らしくあり、男が男らしくあることによって、凡ての関係か円満になり完全になり、其処に自由と独立があるのです。

 

 

見事なまでに個人という考え方を否定しています。ここに出ている女権主義はおもに米国や英国のそれであり、それに影響された日本のそれですが、はっきり「個人主義に出立した女権主義」と位置づけています。女も個人として決定してよく、その選択肢を拡大するのがフェミニズムであるといった考え方を完全に否定。

そりゃ、自由と独立を持っている男子のすべてが完全に幸福ではないでしょうよ。しかし、自由と独立を持っている男子の中にはそれがない場合よりは幸福と感じる人たちが存在しています。それがない方が幸福と思う人は、その個人が自身の自由と独立を放棄すればいいだけ。その選択がある方がない方よりいいのだから、だったら自由と独立を得られるようにした方がいい。女も一緒。

あるいは幸福であろうとなかろうと、そこに不均衡があるのだから、それを是正しようと考えるのは当然です。

黒人奴隷だって、中には「このままでいい」と考えたのもいるでしょうし、それを使役する白人の中にも不幸な人はいたでしょうが、それをもって奴隷制度を肯定できないのと同じです。

山田わかも、自分が望む理想の女の生き方を実践すればいいだけであって、社会全部がどうしてそれに合わせなければならんのか。しかし、これは今も続く考え方です。主語を「私」でなく、「女」とする考え方です。

たとえばLGBTの権利を主張すると、「そんなことをLGBTの誰もが望んではいない」といったクローゼット層が出てきたりします。そうしたい人たちは死ぬまでクローゼットでいればいいだけのことで、その選択を否定するようなことは誰も主張していない。個人がどうするのかを決定すればいいだけです。その決定が現在できにくいことを改善しようとしているのに対して、「私」にすべてを合わせなければならないと考えてしまう。個人主義からもっとも遠い発想です。

※「1900s Posters Against Women’s Right To Vote Are Infuriatingly Anti-Feminism」より。女児がズボンを履きたがるのはフェミニストの第一歩ってところでしょうか。ほのぼのとしたフェミニズム肯定の絵ではなく、こういう行動を放置したら婦人参政権を求めるようになるという趣旨です。

 

 

 

森律子と180度違う山田わか

 

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こうも女権論を否定していた山田わかでありましたから、森律子が、その手法はともあれ、ロンドン滞在時に一定の共感をもって見ていたサフラジェットを肯定できるはずがない。

 

 

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