松沢呉一のビバノン・ライフ

女の社会進出を全力で否定する山田わか—女言葉の一世紀 127-(松沢呉一) -3,544文字-

山田わかの凄まじい婦人参政権否定論—女言葉の一世紀 125」の続きです。

 

 

 

男子を奴隷にしている婦人達が婦人参政権運動に

 

vivanon_sentence前回書いたように、山田わかは米国で婦人選挙権が実現されたことを否定していて、その根拠になっているのは米国の婦人たちの生活ぶりであり、これがムチャクチャです。

 

 

一体米国の男子は有産階級無産階級を問はず皆活動的であって、怠けている者は殆ど無いと云ってもいい位のものです。富豪と云はれる人であっても、日曜日をのぞく外は、皆朝早く起きて各々の職務に従事します。従って、朝食も早くなります。処で、主婦はどうして居るかと申しますと、まるで多くの主婦達が相談でもした結果のやうに、大抵は主人の出かける時分になっても起きてきません。主人は妻の眠っている間にコッソリ出て行ってしまふか、さもなければ給仕を相手に一人朝食をすまして、帽子を手にして、廊下から妻の寝室の方を向いて『××や行ってきますよ』と呼びかけます。妻は床の中で「行ってらっしゃい」位答へて寝返りでもして、又、グーッとねこんでしまひます。しばらくしてから目がさめると、ベルをならして女中を呼んで、ねどこの上へ朝食を運ばせて食べます。

 

 

この調子で、主婦たちは化粧をして訪問客の相手をして、夜になると子どもを放り投げて芝居や音楽会に出かけていくんだとさ。そりゃ、そういう人もいるだろうけれど。

 

 

労働階級の妻達はどうかと申しますと、彼女達は前述の中流以上の婦人の生活を真似ることに汲々としてゐます。以前の労働者階級はどんな小さな家でも一軒の家を持ったものですが、此の頃は家を持つと云ふことをしまいとしてゐます。大抵はアパートメントハウス、先づ高等下宿屋と云ふやうな処へ住みます。夕飯には盛装して大きな食堂に行って、着物をみせびらかしながら食事をしたいと云ふのが主なる理由です。ですから子供を生むことを非常に嫌ひます。其のために避妊と云ふことが益々盛んになるのです。

 

 

そういう人もいるだろうけどさ。ここでしっかり産児制限運動をくさすことも忘れていません。サンガーを嘲笑した山田わからしい。

 

 

同じ労働者階級でももう少し下になると間借りをしてゐます。夫は時分で朝食の仕度をして、そして、まだ妻が寝てゐる間に仕事に出かけてしまひます。妻はゆっくり起きておつくりでもして、友人の処でも遊び歩いてゐて、夫が夕方帰る迄はうちにより付きません。

 

 

そういう人もいるだろうけどさ。

 

※この図版はここから借りました。

 

 

山田わかのネタ元はおそらくキリスト教右派

 

vivanon_sentence山田わかのネタ元、思想的背景は以下を読むとわかります。

 

 

其の外に工場に通ふ女、タイピスト、売子、事務員と云ふ種類があります。彼女達は男の労働者と同じやうに朝早くから出かけなければなりません。夕方帰れば矢張り盛装して、異性の友人を誘って食事に行ったり、安芝居や、安音楽会へ行きます。異性の友人を求むるわけは何処に行っても其の友人が支払ひを待つからです。

今迄に挙げて参りました厄介な婦人達の外に、全米国婦人の二割乃至三割位本当に真面目な家庭婦人や熱心な宗教家があります。(略)

ざっと先づかう云ふのが米国の婦人であります。そして、これ等の婦人がいよいよ参政権を獲得したのであります。そして、既に政治上大勢力を得たのであります。処で、今、最後にあげた真面目な家庭婦人及び熱心な宗教家は殆ど例外なしに参政権を希望して居りませんでした。男子とは仕事の種類こそ違ひますが、併し、人として妻として母として男子と同等な社会上有益な仕事をしてゐる其れ等の婦人が参政権を要求しないで、他の七割乃至八割の婦人、自分は性欲上男子の奴隷となり経済上男子を奴隷としてゐる婦人達が猛烈に参政権を希望してゐたのです。

かう云ふ夫人が投票権を使用することは、彼女達が性を資本として男子の贅沢の道具にしてゐると同じやうに、又、男子を政治上の奢りの具としてしまひはしないでせうか?

 

 

婦人参政権に賛成したのは「性欲上男子の奴隷となり経済上男子を奴隷としてゐる婦人達」だったんですってよ。

それに対して「全米国婦人の二割乃至三割位本当に真面目な家庭婦人や熱心な宗教家があります」「真面目な家庭婦人及び熱心な宗教家は殆ど例外なしに参政権を希望して居りませんでした」と書いていることに注目。

 

 

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