松沢呉一のビバノン・ライフ

SMクラブの料金推移—女王様の価格(3)-(松沢呉一)-3,043文字-

フリーが少ない日本のセックスワーカー—女王様の価格(3)」の続きです。

 

 

 

マゾは個人につく

 

vivanon_sentence性風俗産業一般に、客は大きく三種います。ひとつめは流しタイプ。新しい店ができると行ってみて、話題のプレイがあると行ってみて、自分のタイプがいると行ってみて、たまたま見かけると入ってみて、出張先で遊んでみて。これを繰り返している人たちです。たまに遊ぶ人はたいていこれであり、数で言えばこれがもっとも多いのですが、店が大事にする客はこれ以外。

ふたつめは店につく客です。安心して遊べる店を見つけるとずっと通う。従業員とツーカーになると融通を利かせてくれますから、なにかと得をします。スタンプカードの類いもありますしね。さらに細かく言うと、店舗というより、従業員につく客もいます。

このパターン1とパターン2は指名をしません。ネットで見て指名することはあっても本指名をしない。

そして、もうひとつは個人につく客です。同じ相手を指名し続ける。相手を気に入ると年単位で通う。相手が店を移動すると、一緒についていく。

普段は「店について遊ぶ」というスタイルで、気に入ったのがいると個人につき、それが終わるとまた店に戻るとか、特定の店の常連でありつつ、他の店も回るといった融合型もいますが、その時々でどれかに振り分けることが可能です。

ピンサロやヘルスではパターン1とパターン2が多い。値段が高くなるほど、個人につく客が増えて、高級ソープのトップクラスは個人につく客だけで予約がいっぱいになりますので、新規の客がつけない。

その点、SM領域では個人につく客が比較的多い。バターン3です。いろんな女王様につく奴隷は信用されないですから。

このタイプの客を一定数集めれば値段を高くしてフリーでやっていくことは十分にできますし、現にフリーで風営法までクリアしている人たちはそういうタイプです。

SMは安全性の問題もありますから、まずは店に属して、その辺を会得し、客を溜めて独立するのがスムーズです。海外のフリーの人たちは安全性は大丈夫なのか気になりますが、欧米ではパーティやサークルの類いが盛んですから、そこで覚えられましょう。それと、面倒かつ危険性が高いのは縛りであって、あっちの人たちは拘束具を使うため、そんなに危険なことはないのかも。知らんですけど。

長時間のプレイをやりたがる客を少数集めれば、つねに客を募集する必要はなく、客がいなくなったら補充すればいいわけですが、そこに踏み切る人が少ない。独立するとしても、何人かでやる。自分はママになって、下に何人か抱える。

これが値段が統一される背景にあって、全体の値段が下がると全員の値段が下がる構造になっています。

※前回SSを出したロスのSMクラブは雑誌「Time Out」の記事より。Time Out誌はこういうジャンルのガイド記事も取り上げるんですね。「海外では〜」とデマを言う人たちはちゃんと見とけ。

 

 

SMクラブの料金の推移

 

vivanon_sentenceでは、なぜかつては記事にあったように5万円からだったのか。そもそも最低料金5万円というのはちょっと膨らませすぎかもしれない。実際には3万円くらいだったかと思います。

「秘密クラブ」といったサークルスタイルの愛好会は昭和20年代には始まっていたのですが、現在のSMクラブに通じるような店という業態が始まるのは昭和30年代の後半だと思われます。1960年代。

古くからマゾをやっているM男さんが言ってましたが、1960年代でも3万円だったそうです。初任給4万円台の時代ですから、今で言えば10万円以上。その人は当時はまだ若かったので、こつこつ金を貯めて行ったそうです。医者、会社経営者、政治家みたいな人たちばかりが客だった時代ですから、若いのはさぞ珍しかったでしょう。

 

 

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