松沢呉一のビバノン・ライフ

性癖で身を滅ぼした人々—カストリ雑誌の記事から-[ビバノン循環湯 401] (松沢呉一) -2,300文字-

「スナイパー」に書いた原稿のはず。

 

 

 

東洋のサディズム

 

vivanon_sentence「猟奇と実話」というカストリ雑誌の創刊号(昭和二四年)の特集は「猟奇の泉」。

丸木砂土、南部僑一郎らが書いていて、アンケートには「のらくろ」の田河水泡までが答えています。これを読むまで知らなかったのですが、田河水泡は「多くの人々があまり顧みない卑俗な言葉」をコレクションしていたそうです。チンコとかマンコとかセンズリとかそういう言葉でしょう。私も一時データベースを作ってましたから、同好の士です。

この特集の中に小堀孝二という人物が「東洋の女性虐待(サディズム)」という一文を寄稿しています。この小堀孝二は日本経済新聞の運動部にいて、競馬を得意とした人物かとも思うのですが、はっきりとしません。

暴君ネロが敵の女奴隷を宮殿内で虐殺するなど、西洋のサディストの残虐ぶりはよく知られていますが、むしろ東洋の方が残虐ではないかという趣旨の内容です。

中国にはそんな話がいっぱいあります。武帝の皇后は嫉妬深くて、武帝がちょっとでも思いを寄せた女がいると、たちまち虐待。武帝が苗妃という美女を寵愛したため、全裸で庭の木にくくりつけ、手足を矢で射て、舌を切り、腹を裂いたそうです。

日本ではなんと言っても切支丹への迫害が知られます。長崎の小夜という美女は、親が処刑されたあと、一生処女で過ごすことを決意し、二十歳で捕らわれ、後ろ手で縛られて宙づりにされて肩を脱臼。それでも改宗せず。焼いた竹の櫛を爪の間に刺し入れられ、足を縛られて水瓶の中に漬けられても改宗せず。水を口の中に流し込み、腹に石を置いて血の混じった水を吐かせても改宗せず。穴の中に吊されて絶食十三日目に縄を切られて穴の底に落ち、そこに雨水が流れ込んで遂に絶命しました。

互いにひつこいですね。私だったらタバコを取りあげられただけで改宗します。

なんて話は拷問史の本によく出ているので、いまさら驚くようなことではなくて、私が注目したのは、現代の話です。

 

 

妊婦に財産を注ぎ込んだ呉服屋・二瓶久助

 

vivanon_sentence昭和二三年、浅草松屋百貨店で、読売新聞社主催による「防犯展覧会」が開かれ、ここに伊藤晴雨の拷問図が展示され、見物人が詰めかけて押すな押すなの大盛況だったそうです。悪いことをした人間を制裁するという名目があるため、堂々と自身の嗜虐性を満足させることができるわけです。

おそらくこれは藤沢衛彦の企画によるもので、藤沢衛彦と共著で『日本刑罰風俗図史』を出している晴雨に声がかかったのでしょう。

 

 

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