性別・世代の違う人になりすますのは困難—世代で変化する言葉[下]- (松沢呉一)-3,239文字-
「気づきにくい男女の文体差—世代で変化する言葉[中]」の続きです。
星空サラの場合
一部で話題の星空サラですけど、「映り込みの悲劇がこれまでに多数起きているのに、どうして学習しなかったのか」「PCを使い始めて何年も経つのにスクリーンショットを知らなかったのか」「著作権を侵害すれば削除されるのは当たり前で、これが言論の弾圧に見えるのか」というところまでは「底辺ネトウヨはこんなイカれている」と笑っていられたのですが、すでに私は笑えません。
触れにくい領域に入っているので、ここではおそらく70代の男がヘイトスピーチをまき散らしながら40代から50代という想定(一番下の子どもが大学生ということからの推測)の主婦になりすましていた可能性が高いことだけを見ていきます。
今の自分ではない誰かになりたい気持ちはわかります。私の中にも確実にあります。しかし、ネットならそれが可能かもしれないと思ってしまうのは浅はかすぎます。
私でも、たとえば二十歳くらいの女子になり切れるかと言えば無理。Twitterで自分のことを晒さずに適当なことを書いているだけならできるとしても、年単位でプログを書き続けるのは無理。
女子大生になり切るとしたら、最低限いつが試験期間で、いつからいつまでが夏休みかといったスケジュールを把握しておく必要があります。周辺の誰かに協力してもらってもいいのですが、そうすると彼女には私がなりすましをしていることがバレます。どうせ口止めしても漏れますから、自分以外、誰一人としてそのことを知らない状態にしておいた方がいい。
大学生のスケジュールや行動パターン程度は、ネット上の特定の誰かを追って、それをなぞることでクリアできるとして、「私」を前に出す時にボロが出ます。
仮に音楽の話を書くとして、ふだんも自分の過去を懐かしむことがないので、プログレについて書いたり、東京ロッカーズについて書くようなことはほとんどないですけど、相当に詳しいと自負している今現在のブルガリアやルーマニアの音楽について書いても、若い世代の女子だとはたぶん思われない。
女子は他者との交流として情報を出していく傾向が強いし、自己承認を求める傾向が強いので、友だちが食いつくものを出すってもんです。そこをしっかり意識して、ワンオクについて書いておくくらいの知恵は働くとしても、これとて準備が必要。
※星空サラの騒動で衝撃だったのは卵の黄身に撮影者が映り込んでいたことです。よく見つけるわ。なりすましているわけではないのに、「牛丼に生卵をつける時は写真を撮らないようにしよう」と肝に銘じました。なお、この鍋の写真は、カツ煮のようなものに卵を入れたものと思われますが、タマネギが多いことから、「一人暮らしだろう」と推測されてました。これ、私もやってしまいます。残さないように全部使って、タマネギだらけ、ニンジンだらけ、大根だらけの料理が完成。
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