松沢呉一のビバノン・ライフ

新しい時代には新しい言葉が必要とされる—言葉の経年変化[下]-[ビバノン循環湯 409] (松沢呉一)-2,891文字-

擬態語・擬音語は変化しやすい—言葉の経年変化[中]」の続きです。中に出てくる号数はメルマガの号数です。

 

 

 

「えろえろ」の場合

 

vivanon_sentenceえろえろ」は他のエロ副詞と違って形容動詞的に使用し、かつ擬音語・擬態語ではないので、ここまでの話とは少し違う。「えろえろ」は昭和初期に流行って、それから長らく忘れ去られていて、だから新鮮さをともなって復活したように思える。私が復活させたと言いますか。

戦前からあった言葉とは言え、若い女性までが使用するようになったのは最近なので、それほど手垢にまみれた感はないが、この「えろえろ」という言葉が昭和初期に多用され、長らく使われず、昨今復活したという経緯から類推するに、「繰り返しの副詞、形容動詞は使用されなくなってきた」というのではなくて、「繰り返しの副詞、形容動詞は新しい表現が好まれる」、つまり、言葉が入れ替わるペースが早いのではなかろうか。

「いけいけ」「きゃぴきゃぴ」はすでに使用頻度が落ちてきていようが、これとて、そう古い言葉ではない。381号「雑談16」で、私は「ウハウハ」と書いていて、それ以外でもわりと使っているが、これもオッサン臭いかもしれない。たぶん高度成長期の言葉だろう。大橋巨泉の造語かな。ハッパフミフミ。

「めろめろ」もたぶんそう古くはない。せいぜい半世紀といったところか。これってメロドラマの「メロ」なのかな。メロドラマの「メロ」ってなんだ? mellowかな。

 

 

 

全然違っていた。「めろめろ」は江戸時代からある言葉だった。「彼は彼女にメロメロ」という意味は1から転じたものだろうが、今は火が燃える様をこの言葉で表現することはなく、使う場合は「めらめら」だろう。

で、メロドラマは元はフランス語で「音楽劇」って意味らしい。なんで日本では、主婦が見る昼間の連続ドラマをメロドラマって言うようになったんだろ。フランス語、あるいは英語の時点でも、そういう意味合いがあったのか。話が飛ぶので、これについては深入りせず。

※島村洋子著『メロメロ』は2001年刊。2001年でもすでに古くさい言葉だと思うが、「だからあえて」かな。

 

 

らりっている状態を意味する言葉

 

vivanon_sentence「覚醒剤でヘロヘロ」というように、ラリッている様子を表現する「ヘロヘロ」もそんなに古くはないのではなかろうか。と思って辞書を見たら、またまた違っていて江戸以前からあったよう。

 

 

 

そんなことはねえだろうと思いつつも、ヘロインの「ヘロ」かとも想像していたのに、これまた古い言葉のよう。もとはラリッている状態の意味ではないけれど、もともとあった言葉をラリッている状態に転用したのだろう。

 

 

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