松沢呉一のビバノン・ライフ

多数派による少数派の封殺—女の分断・フェミニズムの分断[1]-(松沢呉一)-3,061文字-

これは去年書いてあったものです。出すタイミングを逸したため、「セックスワーカーのためのアドボケーター養成講座」の内容を中心にまとめた『セックスワーク・スタディーズ』(日本評論社)が出る時にでも宣伝を兼ねて出そうと思っていたのですが、発売されるのは9月になってしまいそうなので、数日前に私のパートのゲラチェックが終わった記念で公開しておきます。丁寧なのはいいとして、『セクスタ』は時間をかけすぎかと。

共感できるフェミニスト・共感できないフェミニスト」シリーズや「エレン・ケイ(のある部分だけ)を再評価する」シリーズを読んでいる人はもうわかっている内容でしょうけど、改めて「なぜフェミニズムの中での意見の対立は避けられないのか。にもかかわらず、なぜ相互批判を潰そうとするのか」をわかりやすく説明しておきました。フェミニズムの幅は広いですから、意見が違うのは当たり前、その違う部分で対立するのも当たり前、そのことは『読む辞典–女性学』でも確認した通りです。なのに、それを避けようとする人たちがいます。これこそがこの国のフェミニズムを活性化させず、広範な動きにならない理由になっているのではなかろうか。

次回出てくるミルやベーベルを読んだのは大昔なので、本当は全部読み直して、原文を引用してより正確に、より緻密に論じた方がいいのでしょうけど、そこまでやっている暇はないので、これを踏み台にして、あとは頼んだ。誰に頼んだのかは知らん。

 

 

 

女を分断してきたもの

 

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セックスワーカーのためのアドボケーター養成講座・大阪編」でもその話題が出てましたが、セックスワークを肯定することやそれに反対するフェミニストを批判することは「女の分断である」「フェミニズムの分断である」と言いたがる人たちがいます。あれはある種のフェミニストたちの口癖みたいなもので、深く考えてないんじゃなかろうか。

これについては東京での講座を受けて、「セックスワーカーは偉い人—「セックスワーカーのためのアドボケーター養成講座」のご報告 5」で説明をしました。

そこに書いたように、フェミニズム批判に対して、よく「フェミニズムは一枚岩ではない」と反論しますね。その通りです。フェミニズムの幅は広いですから、特定の個人、特定のグループを取り上げてフェミニズム全体を否定するのは無理ってもんです。

私自身で言えば、批判しているのは「バカなフェミニスト」です。具体的には「私の都合」「私が考える女の都合」によって、個人の意思、個人の決定を無視し、踏みにじるようなフェミニストたちを批判しています。

しかし、しばしば「フェミニズムは〜である」「フェミニストは〜である」といったように、そうではないフェミニズム、そうではないフェミニストの存在を無視した決めつけをやるフェミニストもいます。それでいて他者が「フェミニズムは〜」「フェミニストは〜」と批判すると、「全体を決めつけるな」と反論するのは二枚舌です。

また、その中のある部分を批判すると、今度は「分断するな」って言い出すのはおかしいっしょ。最初っから一枚岩じゃないんだから、意見が対立することがあるのは当然です。この両者を使い分ける人にとって「分断するな」というフレーズは批判をかわす方便でしかないのです。批判から目を逸らしてごまかすのはやめましょう。

たとえば戦前、「婦人参政権に賛成か反対か」のアンケートをとったら、「反対」と答えた女の方が多いかもしれない。なにしろ女学校の校長だって婦人参政権反対の立場を表明していたのだし、婦人運動家でさえも反対を表明しているのがいたくらいで、女学生たちだってそういう教育をされていたのですから、「政治参加、社会進出より家事に専念することが女の使命である」と信じていたのは多かったでしょう。まして教育を受けてない女たちにとっては「どうでもいいこと」だったかと思います。今日明日の米代をどうするかの方が大事。

この時に婦人参政権を求める女たちに「女を分断するな」「婦人運動を分断するな」と非難するのが正しいですかね。

このように、「分断するな」という言い草はしばしば多数派による少数意見の封殺でしかないのでくれぐれも注意のこと。この時の「セックスワークをめぐる多数意見とは何か、少数意見とは何か」について、大阪の講座でもう少し詳しく説明しようとしたのですが、中途半端なところで終わってしまったため、改めて書いておくことにしました。

 

 

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