松沢呉一のビバノン・ライフ

ラディカル・フェミニズムの御都合主義的利用—女の分断・フェミニズムの分断 [4]-(松沢呉一)-3,228文字-

「結婚しているフェミニスト」は成立し得るか?—女の分断・フェミニズムの分断 [3]」の続きです。

 

 

 

結婚と売春に対する不均衡な扱いこそ道徳

 

vivanon_sentenceベーベルの指摘に従うなら、同じ奴隷制度の両面である結婚と売春において、結婚は合法であり、一方の売買春は日本では現実に違法とされているのですから、結婚制度を支えるために売春を蔑視する構造は今も続いていることになります。その上で、結婚制度を自身が肯定し、補完しておきながら、国家権力の力を借りて売買春を否定するようなフェミニストを信用しろという方が無理。

ミルやベーベルは19世紀の人物であり、当時とは、女の地位が大きく違っていて、結婚のありようも違っているのだから、結婚制度を否定する必要はないという意見もありましょうけど、それで言えば売春も同じです。

また、「アドボケーター養成講座・大阪編」で、他の講師からも提出されていたように、夫婦間でなされる殺人や傷害、暴行などの犯罪が多数起きています。売防法に基づいて設置された婦人相談所でも、夫婦間のトラブルを原因とする相談者が圧倒的に多いことが数値にも出ています。その数値の一例は「データが物語る虚偽と詐術—兼松左知子著『閉じられた履歴書』のデタラメ 12」を参照のこと。

婚姻関係にある者たちの問題の方が比較にならず多いのに、結婚総体を否定することなく、個別例を救済しようとする。対して、圧倒的に少ない問題しか起きていない売春総体を否定しないではいられないのは、道徳に支配されている証左です。自身が奴隷であることを疑えないまま、その奴隷の地位を守ろうとするのは、旧来の道徳をなぞるに過ぎず、それでいてフェミニストだと自称するのなら、糞のつくフェミニストでしょうよ。大杉栄や伊藤野枝の言う「奴隷根性」というやつです。

※「アドボケーター養成講座・大阪編」の翌日、自転車で走り回っている時に見つけた新町橋の石碑と欄干の柱。新町の歴史的痕跡はこれくらいしか残っていないみたい。

 

 

ドウォーキンを既婚の男が肯定する滑稽

 

vivanon_sentence前々回見た分類において、「結婚肯定・売春否定」の立場でいながら、アンドレア・ドウォーキンを支持する人がいるのですが、ラディカル・フェミニズムを御都合主義的に利用しているようにしか思えません。ドウォーキン自身が変節して道徳派と結託するようになったと言えるので、ドウォーキンの正しいフォロワーかもしれないですが。

性の政治学ケイト・ミレット著『性の政治学』がラディカル・フェミニズムの始まりとされています。「フェミニストに異議を唱えるフェミニストたち—共感できるフェミニスト・共感できないフェミニスト 3」に書いたように、内容はちいとも覚えてないですが、この本もまたベーベルの指摘をもとに、奴隷制度がいかに張り巡らされているかについてこれでもかと暴く内容だったはず。つまりは「結婚否定・売春否定」です。読み直そうと思わないではないですが、すぐに本が出て来ないし、老眼鏡なしで勘で読むには厳しい内容だったと思います。

続くアンドレア・ドウォーキンは結婚、離婚を経てフェミニストとしての活動を始めていて、自らの経験から「結婚否定・売春否定」の立場になったと見ていいでしょう。その点では首尾一貫していたはずです。ある段階までは。

ドウォーキンの本を読むと頭が痛くなりますが、本を読まなくても、Wikipediaで十分にそのことはわかります。

 

 

結婚とはレイプを正当化する制度。レイプは本来、婦女を無理矢理連れ去るという意味だが、連れ去って捕虜にすると結婚になる。 結婚とは捕虜である状態の拡大延長。略奪者による使用のみならず所有を意味する。

ポルノグラフィ―女を所有する男達』より

 

 

不均衡な男女関係がある限り、結婚はレイプ、男女のセックスもレイプ。この考え方から、ポルノも売買春も否定されるわけですが、あくまで「結婚はレイプである」「男女のセックスはレイプである」という前提があってのことであり、そこから切り離して「売買春はレイプである」「ポルノはレイプである」とは言えません。これらはコインの表裏であり、ワンパックなのです。

もちろん、ベーベルやその支持者たちが言う論自体が成立しないのだという考え方もあり得るでしょうけど、ラディカル・フェミニズムはベーベルの延長上にあるのですから、ラディカル・フェミニズムの立場をとるなら、「ベーベルなんてすでに歴史の遺物」「そんなもんは読んだこともない」なんてことは言えないだろうと思います。

 

 

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