松沢呉一のビバノン・ライフ

「かわいい」を小娘がおっさんに使う意味—バンプ・オブ・チキンの「リリィ」から-[ビバノン循環湯 410] (松沢呉一) -2,727文字-

「ロック画報」の連載。2002年に書いたもの。

この頃はカラオケばっかりしてまして、カラオケをすることで歌詞を吟味することになり、当時はよくメルマガでもJ-POPの歌詞について論じておりました。カラオケをしなくなるとともにバルカンものだったり、スカンジナビアものだったり、中央アジアものだったり、エチオピアものだったりを聴くようになるのですが、最近また国内ものをよく聴いてます。ふと気づけばパンプ・オブ・チキンのフォロワーみたいなバンドがずいぶん増えてますけど、手垢のついた言葉を並べている曲が多すぎかと。その点、藤原基央の歌詞は今なお抜きん出ています。

 

 

バンプ・オブ・チキンズの「リリィ」

 

vivanon_sentence最近になってようやっとジョイ・サウンドのすごさに気づいた。村八分やらケムリやらじゃがたらやらタイムスリップ・ランデブーやらも入っていて、「歌いたいものがない」と欲求不満を感じていたロックファンも、ジョイ・サウンドだったら、無理してチューブやサザンを歌わなくていいのだ。

この間、20代の娘さんとジョイ・サウンドを入れているカラオケ屋に行ったら、彼女はバンプ・オブ・チキンを歌った。インディーズ時代のアルバム「THE LIVING DEAD」に入っている「リリィ」だ。バンプ・オブ・チキンは「天体観測」くらいしか聴いたことがなかったんだが、これはいい曲だなあと彼女の歌を聴いて思った。決め手は彼女の歌唱力ではなく、歌詞だ。

 

※「リリィ」は正規の映像が見当たらないので、「天体観測」で。

 

 

ミュージシャンがウソで固めたカッコつけの歌詞をステージで歌い続けていて、そのウソによって潰されそうになるんだが、恋人が「こういうトコロも全部、かわいいヒトね」と肯定してくれることで救われつつ、その愛情を確認するという永島慎二の四畳半漫画みたいな内容の曲である。

 

 

若い女から中年男に向ける「かわいい」

 

vivanon_sentenceここでは私は「かわいい」という表現に着目した。その時にカラオケをした娘さんは、女が男に「かわいい」と言われることをどうとらえるかで、その男がどの程度「男であること」「男でなければならないこと」に執着しているのかがわかるという。

彼女は「松沢さんは女の子にかわいいって言われるでしょ」と言っていて、実際よく言われるんである。「カッコいい」とか、「ステキ」とか、「愛している」とかは、干支が一回りする間にそれぞれ一回くらいしか言われないが、「かわいい」は数ヶ月に一回は言われているかと思う。

つい最近も、「かわいい顔して頼んでもダメ」と言われた。21歳の娘さんに「セックスしよう」って迫っていた時のことで、ニッコニコしながら「ねえ、しようよ。オレとセックスすると、幸せになれるよ」と私は言っていたのだ。

また、飲み屋のホステスさんにも「歳をとってもかわいいって言われるタイプですよね。なかにし礼さんと同じです」と評された。彼女が現在働いているのはは安い店だが、以前は六本木だか銀座だかの高級クラブにいて、なかにし礼がそこのお客さんだったらしい。

 

 

「かわいい」という言葉に見る高低

 

vivanon_sentenceこういうこと言われて素直に喜べるかというと、喜べない自分がいる。「俺はカッコいいとよく言われる」だったら自慢だが、「俺はかわいいとよく言われる」は微妙。

20代くらいだったら「かわいい」と言われても抵抗がなかったと思うが、43歳のオッサンが20歳そこそこの小娘に言われた時に、ひっかかりを感じてしまう。嬉しくないわけではないのだが、素直には嬉しがれない。

このひっかかりは、必ずしも「男だから」ということではない。年齢に関係している。

 

 

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