50代が街のナンバーワン—いくつになっても風俗嬢[上]-[ビバノン循環湯 432] (松沢呉一) -3,789文字-
15年くらい前にメルマガに書いたものです。
図版はすべてネットで拾った著作権切れのフレンチポストカードです。タイトルはそれらを公開している人たちがつけているものです。記号だけのものが多数ありますが、ポストカードにはシリーズの番号が入っているものがよくあって、その番号なのかもしれないし、所有者の分類番号かもしれないのですけど、そのままにしてあります。
一生やっていい仕事
「風俗嬢は若いうちしかできない」と言われがちなのに対して、「風俗嬢は一生できる」と『熟女の旅』などでキャンペーンを張っているのだが、なかなか理解してくれる人は少なくて、当の風俗嬢自身が「いつまでもできる仕事じゃないから」「そろそろ年齢的に厳しいから」などと言いたがるのは嘆かわしいことである。
もちろん、我が思想を実践しているのもいる。
「お客さんは、“この仕事が好きでやっている”とか“ずっとやっていたい”とか言うのをすごく嫌うよね。“目標があるから、目標を達成したらきれいに辞めたい”“事情があってやっている”と言った方が受けがよくて、“この仕事を始めて1ヶ月”“昼間は他の仕事をやっている”と言った方が喜ぶよ。最近そういうことがよくわかってきた」
昼間に別の仕事をやっているのは事実だが、彼女はもう4年くらい風俗嬢をやっている。4年もかけてわかるようなことではないと思うが、彼女はまさに「好きでやっている」「ずっとやっていたい」と心底思っているので、そのことが客に理解されにくいことが理解できない。
「多くの客は風俗嬢という存在は仮の姿であって欲しいと思っているから、営業トークとしては、“本職ではなくバイト”“好きでやっているというよりはやむなくやっている”“4年よりは4ヶ月““4ヶ月よりは4日”と言っておいた方がいいのだよ。まっ、思ってもいないことを口にするのも仕事のうちってことよ」と私はアドバイスした。
「そうなんだよねえ」
彼女はちょっと寂しそうだ。
しかし、現実に、この仕事は一生できる仕事だし、一生やっていい仕事だ。
今まで私はこのことを説明するのに、「熟女ヘルスが定着して、30代になっても働けるし、40代でも雇ってくれる店はいっぱいある。中には50代に入っている熟女ヘルス嬢もいる。ソープランドだったら40代のナンバーワンはザラにいて、ナンバーワンは無理でも、50代の人気ソープ嬢はザラ。街娼やちょんの間には60代だっている」と説明してきた。しかし、これらに訂正を加えなければならなくなった。
フラリと入ったソープランドで
東京近郊にある街を訪れた時のことだ。ここには3軒のソープランドがあり、その1軒にフラリと入った。フラリとは言え、事前調査はしてあって、この街の風俗事情を知るための偵察みたいなものである。
この3軒は別経営なのだが、横のつながりが強く、どこも時間や料金が一緒、システムも一緒。以前ついたことのあるソープ嬢を指名したり、ネットで見て指名することはできるが、店頭での写真指名はなく、したがってアルバムの類もない。
その日、私もフロントで「指名はない」と告げて、順番を待った。待合室には2名待っていたのだが、私が先に通された。あの2名は指名組だったのだろう。
階段のところで待っていたのは、ぽっちゃりしたおねえさんである。身長は150センチといったところ。その体型からすると、30代後半だろう。
「どこからですか」
「都内から。ちょっと今日は仕事でね」
「この店は初めて?」
「そうだよ。昨日、ネットを見ていたら、ここが出ていたからさ」
彼女も自分が若くないことを自覚していて、繰り返し「うちの若いコたちは」という言い方をする。この店は20代が中心で、彼女は上から何番目かのベテランになるらしい。
「若いコたちは、ネットでも平気で顔を出しますよね。かわいいコたちが出ていたでしょ。私たちの時代には考えられない」
「ああ、何人か顔出ししていたね」
取材でもないのに根掘り葉掘り聞くのはためらわれたので、詳細はわからないのだが、彼女はずっと吉原にいたそうだ。たしかに吉原事情には相当詳しくて、120分の高級店にいたこともあると言う。若い頃は高級店で稼いでいただろうことが今の彼女からも十分想像できる。
顔立ちは悪くなく、話もうまいので、たぶんこの店でもそこそこの人気があるんだと思う。体型の崩れは歳のせいだけでなく、確証はないが、おそらく子どもがいるんだろう。
体についたテクニック
10年以上になるキャリアは無駄ではなく、彼女は手際よく椅子洗いや潜望鏡などのサービスをこなして、私をマットに招いた。60分の店だと、マットは省略することも多いものだが、ここでも彼女はしっかり仕事をこなす。
「たまにマットはいらないというお客さんもいますけど、私のお客さんにはマットが好きというのが多いんですよ」
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