松沢呉一のビバノン・ライフ

腹が立った事情—東京医科大女子減点問題[上](松沢呉一)-2,799文字-

昨日、Facebookで東京医科大学の受験で女子受験生を不当に扱っていた件を取り上げて、私はこう書きました。

たとえば裏口入学させると金がたんまりもらえて懐が潤うなら、やってはいけないにしても理解はできる。しかし、これを組織的にやる意味がわからん。

それから数時間、ネット上でデータを集め、東京医科大のサイトを見ているうちに、考えが変わりました。

裏口入学させると金がたんまりもらえて懐が潤うなら、やってはいけないにしても理解はできる。今回も、やってはいけないけど、理解はできた。

なぜ理解できるところに至ったのかの経緯を公開しておきます。これは深い問題なのです。つっても実際どうなのかわからず、これから各メディアの取材が進めば答え合わせができます。間違っていたらごめん。

 

 

 

合格するはずの女子受験生の半分以上が不合格?

 

vivanon_sentenceこれは腹立つわ。

もっとも数字が細かい朝日新聞デジタルから。

 

 

東京医大、女子受験者を一律減点 受験者側に説明なし

2018年8月2日11時59分

 

東京医科大学が今年2月に実施した医学部医学科の一般入試で、受験者側に説明のないまま女子受験者の点数を一律に減点し、合格者数を調整していたことが関係者への取材でわかった。こういった点数操作は遅くとも2010年ごろから続いていたとみられる。同大は、前理事長らが不正合格をめぐって東京地検特捜部に在宅起訴されており、来週にも入試に関する調査結果を公表する。

同大医学科の今年の一般入試は、1次でマークシート方式の筆記試験を行い、合格ラインを超えた受験者だけが2次の面接と小論文などに進む仕組み。募集要項で男女別の定員は定められていなかった。

関係者によると、同大では1次の結果について、女子の点数に一定の係数をかけて一律に減点。その結果、今年の一般入試の受験者計2614人(男子61%、女子39%)のうち、1次試験の合格者は男子67%、女子33%で、2次試験を経た最終合格者は男子82%(141人)に対し、女子は18%(30人)に下がり、男女で差が出ていた。

関係者によると、こうした調整は長年続き、10年の一般入試の合格者の男女比で、女子が4割弱と前年を大幅に上回ったことで加速。「女性は大学卒業後に出産や子育てで、医師現場を離れるケースが多い。医師不足を解消するための暗黙の了解だった」(同大関係者)として、女子の合格者を全体の3割以下に抑える調整が行われてきたという。

文科省の担当者は「入試の募集要項に男女比の調整を明記していれば、大学の責任で実施できる。東京医大がそうした説明をしないまま調整をしていたなら問題だ」としている。

 

いったい何人が合格ラインに達していたのかわからないですが、受験生の男女比から単純計算すると、本来は66人から67人が合格していたはずですから、半分以上が不当に不合格にされた可能性があります。「10年の一般入試の合格者の男女比で、女子が4割弱と前年を大幅に上回った」という関係者のコメントとも合致していて、今も操作をしなければそのくらいになりそうです。

文科省の担当者の「入試の募集要項に男女比の調整を明記していれば、大学の責任で実施できる」というコメントにも驚きましたが、そうしないと「女子大はどうなる」ってことになるので、仕方がないのか。事前にわかっていれば受けようとはしない。しかし、「男女共学だと思って受験したら、今年から女子大になって、男子は落第」ってことになったら、「受験料返せ」ですね。事前の合意があったかなかったかで話は違ってきます。

最後に出てくるように、こうせざるを得なかった事情は推測できて、私もどう解決していいのかわからないのですけど、ともあれルールに則って、「女子の定員は30人」と事前に公表しておくべきだったんだろうと思います。

次回出てくるように、受験生の女子率と合格者の女子率が大きく違う例は他校でも見られるので、受験生から合格者を割り出すことは難しそう。そういった学校も操作している可能性がないわけではなくて、その辺、どうなんでしょ。

 

 

腹の立つ理由

 

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なぜこれに対して私は腹が立っているのか。「不当に落ちた受験生がかわいそう」ということがメインではありません(それもなくはない)。「この結果、成績が悪い生徒が医者になり、人の命を預かることになっていいのか」ということでもない(それもなくはないんだけど、この結果入れた学生よりもっともっと頭の悪い学生しかいない医大もあるわけで)。

これに腹が立つのは議論の大前提を覆されたからです。私は「日本の女性議員率」から始まって「男女別学論を検討する」シリーズなどで、ずっと「どうすれば女性議員率が高められるのか」を検討してきたわけですよ。

議員のクオータ制は下駄をはかせる方式で、それでは根本的な解決にならず、むしろ問題の本質から目を逸らすだけであり、性別で点数を増やしたり減らしたりするのは、東京医科大の発想と同じでしかない。だから私はどっちも否定します(クオータ制批判の総集編である「クオータ制推進論者は「偏差値高い系」女子校のデータを見て出直せ!—改めてクオータ制に反対する」を参照のこと)。

各大学は女子学生を増やすべく奮闘をしてきています。東大だって親元を離れて暮らす女子学生に援助金まで出して、批判を浴びながらも、その対策をやっています(女子寮が女子学生増加に追いついていないことの代わりに出されるものなので、ここまではいいかと思います)。

しかし、専攻の男女偏在はいかんともしがたくて、大学がいくら頑張っても簡単には改善できないのが現状。なんでか知らんけど、女子は文学部に行ってしまうのです。

そんな中で、目を見張る成果を出しつつあるのが偏差値高い系女子校です。ここに光明があります。社会はここから学んで、女子校のあとを追えばいい。

といった検討をやってきたのですが、いくら他の大学が頑張っても、いくら女子校が頑張っても、いくら私が検討しても、東京医科大学はすべて無化するようなことをしています。「いくらあんたらが努力したって、ワイらの学校では女は増やさないもんね」と。ブチきれますよ。

※撮りに行ったのではなく、夜、たまたま通りかかった時に撮ったもの。テカっているところに私が映り込んでいて、ジジイだとバレないか不安です。

 

 

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