松沢呉一のビバノン・ライフ

普遍主義を経ない日本では悲惨な結果に—しつこくクオータ制を批判する[下]-(松沢呉一)-3,275文字-

差異主義はなぜ出てきたのか—しつこくクオータ制を批判する[中]」の続きです。

 

 

 

フランスでは法曹界でも男女半々に

 

vivanon_sentence東京医科大特有の事情があった—東京医科大女子減点問題[下]」で見たように、フランスでの女性医師はなお4割にはわずかに足りないのですけど、あれは数字が古いので、すでに4割を超えていそうです。新規で医師になる世代についてはすでに五分五分になっているのではなかろうか。じゃないとトータルでこの数字にはならないでしょう。ちなみにフランスでも女性医師の増加に伴う問題は生じていて、これについてはそのうちまとめるかも。

フランスの法曹界での女性率はどうなんだろうと思ったら、この論文に出てました。

 

 

全国弁護士評議会による2008年11月26日付報告書『弁護士、現状と数』によると、弁護士数は、女性23619人、男性24619人である)。クチュリエ弁護士・サアダ弁護士の話をまとめると、 パリ弁護士会に限っていえば、現在、パリの弁護士約23000人のうち女性弁護士は約11000人、 弁護士会評議会の構成比は、42名中17名が女性であり、来年度も女性の委員が増加する見込みとのことである。

弁護士数における男女比は、1990年代初頭からの弁護士業への女性の進出に伴うもので、全国弁護士評議会の報告書によれば、1999年から2007年の9年間で、男性弁護士の増加が23%なのに対し、女性弁護士は51%増加している)。

 

 

データが古く、ここから10年経った今ではすでに逆転しているかもしれない。こちらの論文によると、大学の法学部では女子学生の方が多いようです(「どのような学生が法学部に集まるのか。多くは女子学生である」としか書いてなくて、エッセイならいいとして、論文で数字を出さなくてどうするよ)。

パリ弁護士会の会長も時折女性が就任

普遍主義による社会の改革はなお過渡期です。着実に成果を出していますから、結論を出すのは早過ぎます。

私が「日本の女性議員率」でずっとやっていたのも普遍主義に基づいたアプローチだったことがよくわかりましょう。

対して差異主義は男女の差は生来のものだととらえます。その差はどうにも超えられないものなのだから、改善しようとするだけ無駄であって、制度によって数字的平等を達成しようと考える。

「女はやっぱりダメだ。男には勝てないので、制度で数字を上げよう」という考えは普遍主義を否定するものでしかない。そりゃ普遍主義者は反発しますよ。

※パリ弁護士会の元会長Christiane Féral-Schuhl。写真は仏語版Wikipediaより

 

 

ただただ二元論を強化する結果になる

 

vivanon_sentenceまして日本はなお過渡期の入口です。それでも、着々と女性の社会進出は前に進んでいます。早くも頭打ちになっている分野もありますが、法学部の女子率が半分に達している大学も出てきているのですし、足を引っ張る動きはあれども、かつ、それに伴う問題はあれども、医師における女性率も高くなってきています。質の低下を伴っている可能性がありつつも、女性の議員率だって上がっている

何度も繰り返してきたように、時間がかかるんです。一世代で飛躍的に変えようったって無理です。緊急性を要する場合は別として、こういうものは時間をかけて改革していくしかない。

長期にわたって普遍主義を実施してきて、いわばその成熟の結果、差異主義が出てきたのがフランスです。だから対立が起きている。

しかし、日本はいかにも中途半端です。フランスに比べれば、性格的個人主義者の私だって中途半端です。成熟にはほど遠い。

日本では、フェミニズムも一度として個人主義に基づく勢力が力を持ったことがない。ずっと二元論をやってきました。だからフェミニズム内の対立が起きないし、差異主義に対する批判も起きない。良妻賢母主義に毛が生えた程度のフェミニズムが牛耳っているからです。

 

 

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