松沢呉一のビバノン・ライフ

「Twitter社会運動」の反省点—ネトウヨ春(夏)のBAN祭り[12] (松沢呉一)-3,140文字-

匿名であることの強さ—ネトウヨ春(夏)のBAN祭り[11]」の続きです。

本当はここからTwitterのいい点悪い点をまとめる内容になっていく予定だったのですが、遠回りしすぎだし、長くなったのでそっちは独立させました。Twitterは(Facebookより)デマが流れやすい。その分、Twitterは(Facebookより)情報が迅速に拡大するという特性を確認し、それによって起きることを見た内容でしたが、ここではその話はすっ飛ばして、その特性を踏まえて、私の反省点を述べていきます。(※これについては「インターネットより狼煙の時代」でまとめました)

 

 

 

Twitterの迅速さと軽率さ

 

vivanon_sentence2011年以降の社会運動では、Twitterが大きな役割を果たしました。Twitterの拡散力は今までにない動きを社会運動にもたらしました。

ヘイトデモに対するカウンター行動もそうです。Twitterの「軽卒さ」がいい面になっていたところがある一方で、負の側面もやっぱりあって、運動体としては脇が甘過ぎました。

運動体と言っても、きっちりした団体になっていたわけではなく、そのユルユルの団体に誰が属しているのかも互いに正確にはわかっていない状態です。その上どこにも所属していない人が多数いたのですから仕方がないとも言えるのですが、それでも注意喚起はできたはずだと反省しています。

さっき指折り数えてみたら、カウンター参加者で、勤め先や家がバレた人は、私が直接知っているだけでも二桁に達します。上司から注意されただけで済んだ人もいますけど、職場にいられなくなった人も複数います。家がバレた人も複数います。

これはもっともではあって、大量の写真や動画が公開される時代には、かつ自分自身がさまざまな情報を晒す時代には簡単に身バレしますよ。それに伴った警戒心が必要でした。

そういうことを公にすると、敵はいよいよ図に乗るので黙っていたわけですけど、あれはダメージを食らうんです。本人だけでなく、周りもです。

その当事者は飄々としていることもあるんですけど、それが真意なのか、そう装っていたのかはわからない。ダメージがゼロってことはないでしょう。

ヘイトデモの参加者に自身が殴られたり、蹴られたりするよりも、私はこっちの方がジンワリしたダメージを受けてました。ボディーブローです。

このダメージがまた単純ではない。なんであいつがこんな目に遭わなければならないのかと理不尽さに対して憤りが湧く。具体的にはヘイトデモ参加者に怒りが向く。本当は関係のないところでバレているかもしれないけれど、原因はそこにありますから。と同時に、時にはそれをされた側の無防備さにも苛つく。「なんでバレるようなことをTwitterに書くんだよ」と。それもこれも本人の責任ですから、知ったことではないのですけど、自分の責任も感じてしまって、なんともどんよりするのです。

※当初のしばき隊イメージのまんま行動していたら、避けられた身バレもあったでしょうが、これだと広がらない。カウンター行動がメディアに取り上げられるようになったのは木野寿紀提唱のプラカ隊の登場が大きい。木野寿紀の中身は悪魔ですが、一見、平和的で話が通じるように思えますし、これなら上品メディアも取り上げられます。

 

 

多層であるがゆえのトラブル

 

vivanon_sentence2011年以降の運動のありようを群衆(crowd)ではなく雲(cloud)だとした私のポエムがあります。もともとメルマガで書いたもので、野間易通著『金曜官邸前抗議』でも触れられているはず(これは間違いで、笠井潔と野間易通の共著『3.11後の叛乱 反原連・しばき隊・SEALDs』だと野間易通からの指摘がありましたので訂正し、書影も差し替えました、どっちにしても読んでない)。

しかし、その段階で私はcloudが内包する、ある問題に気づいてませんでした。評論家でもなく学者でもなく、私は口を開けば次々と詩片が湧いて出てくる生まれついての詩人ですから、とくに深いことは考えておらず、そこまで読み込む力はありませんでした。

私らみたいなフリーの物書きやカメラマン、会社や店の経営者、バンドマン、アルバイターなど、職場がバレてもさして困らない人たちのノリが全体をリードして、無防備であってはいけない人たちまでが無防備になってしまっていたように思います。それが職場や家がバレた人たちが続出した理由だったのではなかろうか。

唐突ですが、風俗嬢でもこういうことがあるんですよ。風俗嬢の集まりをすると、取材OK・顔出しOKの層と取材NG・顔出しNGの層が混在します。こういう場をリードするのはたいてい前者のグループであり、その時に記念写真を撮って、それをネットに出してトラブったり。

顔出し層はそこまで配慮せず、自分がいいから他人もいいと思い込んでしまいます。はっきりそうだと思っていなくても、自分と違う環境にある人たちのことに思いが及ばない。NG層もこういう場の空気に飲まれて、「まっ、いいか」になる。

 

 

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