松沢呉一のビバノン・ライフ

東大医学部の女子率を高めるには理系女子を増やす以外に方法はない—受験者の女子率・合格者の女子率[上]-(松沢呉一)-2,895文字-

 

 数字にこだわる

 

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ハフポストの「全医学部に聞いてみた。男女の医学科合格率、大学でこんなに違う【独自調査】」のグラフを見ているといろんな疑問が生じてきて、また調べ始めて睡眠不足です。

 

 

この表のタイトルでは「男性」と「女子」が対になってます。よくある「男・女性」のアンバランスとはまた意味が違って、女の方が子どもっぽい印象になってしまいますので、いずれかに揃えた方がいいかと思います。

各大学の言葉の使い方を見ていると、「男子・女子」は学生まで、卒業後は「男性・女性」になっていることが多く、これは落ち着きがいいのですが、学生に対しても「男性・女性」を使っていることがあります。こちらは成人が境ということでしょうか。

校正終了。

話の流れからこの図版の下の方ばかり見てしまうわけですけど、上の方の女子の合格率の高さも不思議。「もともと女子は優秀だから、男子より合格率が高いのは当然であり、なのに、合格率の低い学校がこうも多いのはおかしい」というところに安易に行きついてしまいそうですが、大学の受験では、男女ともに自分の力量に合った学校を選択していて、その中での男女差がこうも生じているのは、どっちの方向であっても不自然だと思います。

しかし、不自然と感じるのは私の感覚に過ぎず、これはどうしたって起きるブレの範囲でありましょうか。このグラフは男子を1とすることで、女子との差を見せやすくしていて(男女の開きを数値化しているので、女子率だけで見た時より差が強調される)、その見た目によって「不自然」と思えているところもあるので、他の数字と照らし合わせる必要があります。

最後はこのグラフに戻ってきますが、ちょっと遠回りします。

 

 

東大の数字を再度確認

 

vivanon_sentenceよく「女子は日常の成績がいい」と言われていて、だから、内申書が意味をもつ高校受験では女子が有利。そのために都立高校は女子の定員を減らす。そうしないと、軋みが生じてしまうことになってます。

小学校の頃から女子はコツコツ勉強をして成果を出す。対して男子は遊びに熱心。アニメを観たり、サッカーしたり、知らないオジサンと一緒に川原でカニを捕まえて遊んだりで忙しい。

しかし、高校くらいになって受験勉強を始めるとメキメキ成績を伸ばすのが出てきて、上位は男子が強くなる。といった話をよく聞きます。

だから、東大、京大など偏差値の高い大学は男子が今も圧倒的に強い。

 

 

代々木ゼミナール「東大研究室」

 

最新のものではないですが、前にも出したグラフです。各大学や文科省が出しているデータを予備校がテーマごとにグラフや表にしていて、そっちの方がわかりやすい。

これ以降も横ばいが続いています。医学部(理3)を見ると、女子率は他校よりずっと低い。このグラフを見れば一目瞭然であるように、東大全体の女子率が低いのは理系女子が少ないためです。文3レベルまで理系の女子率を増やせば東大全体の女子率は3割を超えましょう。

しかし、母数が少ない中で、トップの数字を上げることは容易ではなく、いかに東大が女子率上昇のために奮闘しても効果が出ない。人口が少ない国がオリンピックでメダルを獲ったり、ノーベル賞を獲ったりするのが難しいのと一緒です。

理系女子の母数を増やすには「女子は文学、語学、教育に向いている」という思い込みを変えるしかない(東大では文3に相当)。でも、日本中の女子小学生から高校生までの意識を変えることは東大の叡智をもってしても困難ですから、できることは推薦枠を増やして、「偏差値高い系女子校」の生徒を受け入れることです。しかし、今現在でもずいぶん推薦枠がありますので、これ以上増やすと生徒の質が落ちる可能性もありそうです。人材豊富な中国の賢い女子の推薦枠を拡大すればいいんじゃないですかね。これももうやっているかもしれない。

根本的な問題の改善をせずに「東大はもっと女子を増やせ」の声を高めていくと、こういった裏ワザ的、飛び道具的な手法を取り入れて数字を上げるしかないのです。クオータ制みたいなものです。男だけの問題ではなくて、誰もが意識を変えないと数字は上がらないっすよ。お手本は「偏差値高い系女子校」です。

 

 

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