松沢呉一のビバノン・ライフ

ナチスの国家社会主義女性同盟を礼讃した吉岡彌生—女言葉の一世紀 141(松沢呉一)-3,911文字-

ぜいたくは敵だ—女言葉の一世紀 140」 の続きです。

 

 

 

多数の団体に関わった吉岡彌生

 

vivanon_sentence処女会、日本連合女子青年団といった国家主義に基づく女子青年団体にも吉岡彌生は関わっていて、とくに後者は自身が主宰です。これ以外にも代表を務めた団体はあり、ただの評議員といった肩書きで関与した団体はさらに多数あります。

主体的に戦時体制に関与し、戦意高揚に加担していたことは疑いがありません。女子挺身隊を提唱したのは山高(金子)しげりであったように、男たちが女を戦争に加担させることに抵抗があったのに対して、女たち自身が女も戦争に関わることで国家に貢献しようとしたわけですけど、吉岡彌生は日露戦争の前から、着々と「国家のための女性の起用」を主張していたわけで、実のところ、山高しげり、奥むめお、市川房枝らを思想的に先導してきたのは吉岡彌生だったのではないかとも思えてきました。

彼女はただ論として主張してきたのではなく、婦人の組織化を政府に提案していたようです。

 

 

政府が女子を最高幹部に起用せず、婦人部を特に設けないといふのはそれぞれの理由があるであろうが、これは余りに統制といふ字句に拘泥し過ぎて、特異性の厳存することを忘れてゐる為ではあるまいか。男女は人間の表裏である。分つことは出来ないが、表は表、裏は裏である。小児の時代には男女の区別をそれ程つける必要のなかったものが、中等学校ともなればここにはっきり区別をつけなくてはならぬ。出で社会人となれば男女合一の家庭を営むに至る。

この関係はやがて今日の場合に及び、新体制の単位たる隣組は男女合一運動と見るべきであるが、進んで専門的の研究となれば、男子は男子、女子は女子のみの研究に分科すべきであり、それ等の研究の極致はまた統一されて、国家全体の総合活動にならねばならぬのである。則ち綜合の為の分科であり合一の為の分業であらねばならぬ。然らざれば分科の発展は期し得られない。

その為には上層部に婦人局の如きが置かれ、その長官は必ず婦人を任用し、更に傍系の職能的婦人団体が組織され、これが指導者の立場に立って、育児、教育、保健、経済、国際知識等が夫々専門的に研究せられ、それが最上層に統一される。その最上層の団体長はまた婦人局の長官が兼務することによって真の統一がとれる訳である。

 

 

してみると、吉岡彌生は婦人局長官になりたかったのでありましょう。

この一節を読むと、この時点では「中等学校以上では、女は女としての教育をするのが適切である」と考えていたことがわかり、それは決して女子個人の機会を増やすためではなく、国家全体のためのものであったことを確認しておきます。

※弥生記念講堂。ドアが開いていたので入ってみました。

 

 

吉岡彌生と婦人団体

 

vivanon_sentence以前使った日本婦女通信社編『婦人社交名簿』(大正七年)で、吉岡彌生が所属していた団体を確認してみました。

実の娘の栄子を死に追いやった浜田捨子が評議員をやっていた精神病者慈善救治会で吉岡彌生も評議員をやってました。

 

 

そりゃ二人とも医療関係だからなんら不思議ではないですが。吉岡彌生の横が嘉悦孝子です。

以下はいろは順に並んだ個人別の索引です。

 

 

思ったほどは多くないですが、これは大正七年の発行だからだろうと思います。愛国婦人会にもまだ加盟してません。吉岡彌生が積極的に各種団体の活動を始めたのは関東大震災後のようです。

「子」がついているのは誤植かと思ったのですがね、他もそうなっています。

以下は「花の日会」の項。

 

 

 

 

こういうプロフィールは通常自分で書くってものでしょう。肩書きは「女医」。これ以外の人たちも誰の夫人であるのかが必須項目だったようで、「女は男の付属品」という扱いに反発しなきゃダメじゃないですか。でも、おそらく婦人団体に出入りするようになってからは鈍感になっていったのではあるまいか。

東京女子医科大学の創設者・吉岡彌生—女言葉の一世紀 134」で見たように、『東京女子医学専門学校一覧』(昭和十二)では、吉岡荒太が創立者になっていたのも、そういう配慮だったのだろうと想像します。女は男を立てなければいけないのだと。

 

 

「花の日会」の役割

 

vivanon_sentence「花の日会」は嘉悦孝子が呼びかけた団体で、棚橋絢子、跡見花渓、下田歌子、山脇房子、三輪田真佐子らの女流教育家らが顧問として名を連ねております。

 

 

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