松沢呉一のビバノン・ライフ

家庭と社会を混同するな—人権と道徳の区別もできない弁護士(下)-[ビバノン循環湯 442] (松沢呉一) -3,5文字-

「恥を知らない人間の質問—人権と道徳の区別もできない弁護士(中)」の続きです。

 

 

 

売防法は道徳保持の法律

 

vivanon_sentence「売買春を認めることで女総体が商品化され、これによる被害が女性総体に生ずる」といった妄想的、詐術的、オカルト的論理を別にすれば、売買春に被害者は存在しない。売防法は個人を守る法律ではない。つまり人権を守るためのものではなく、社会の秩序を守るための法律だ。この秩序の正体は一夫一婦制であり、守るべきものは女の貞操である。そんな道徳を守るための法律なんて不要というのが私の考え。

売防法は、個人が守ればいいモラルを国家が規定したものでしかないとの指摘は古くからなされている。両者の合意がある限り、どんなセックスをするのかは個々人に委ねられるべきで、国家が介入すべきではない。仮に多数派が共有するモラルであったとしても、それは個々人の判断に委ねればよく、それを法律にして取り締まろうとするのは安直であり、危険でもある。

対して、その維持を主張するであろうその弁護士が、男が妻や母、娘の職業を許したり許さなかったりすることに疑問を抱けないのは当然であろう。

ちょっと頭を働かせるなら、「自分の娘が売春することを許せるかどうか」という質問はヘドが出るほどありふれているのに対して、「自分の息子が買春をすることを許せるか」あるいは「自分の息子や夫や父親が売春することを許せるか」という質問が女に対してほとんどなされないことにも気づくだろう。このことに、この質問の根源的な意味を見ることができる。

男は自分の意思で行動することができる。女は男の意思でしか行動してはならないという規範がここに働いているのであり、それになんら疑問を抱くことなく乗っかったのがあの弁護士なのだ。恥を知れ。

 

 

家族のルールを社会のルールに拡大するな!!

 

vivanon_sentenceなぜこんな当たり前のことを説明しなければならないのかわからないが、この程度のことも考えられない人間がやっていけるのが弁護士という商売らしいので、改めて説明しておく。

家庭内、あるいは夫婦間のルールは家庭内で決定すればいい。そのルールと社会のルールがたまたま合致することもあるだろうが、違うこともままある。さらには個人的な心情もまたズレていることはいくらでもある。

世の中には、「娘を嫁にやりたくない」という考えの人だっている。この場合には、法律以前に、現に自分が妻と結婚して娘が生まれたこと、世間一般の結婚に対しては祝福することと矛盾しているわけで、法や社会的規範と個人的感情がすべて一致するはずがない。家族の行為とそれ以外の人の行為、あるいは自分の行為と子どもの行為を判定する基準が一致しないことさえよくあるものだろう。

自分は成績が悪かったくせに、子どもに「勉強しろ」と叱る親。この場合はたいてい「勉強ができないと、お父さんのように苦労するぞ」なんてことを言って、子ども思いという善意でくるむわけだが、子どもにとってはイマイチ説得力がなく、親の能力を考えれば、いよいよ説得力がない。

「学歴なんていらない」と世間に向けては言いながら、「いい大学を出ろ」と子どもに言う東大出身者もいそうだ。この場合は、「学歴偏重の社会がなくなった方がいいが、今現在ある以上、学歴がないと損をするということなんだ」なんて子どもに言って聞かせるわけだ。

「日本は国際化しなければならない」と言いながら、娘が外国人と結婚することに難色を示す親もいるだろう。「日本が国際化するのはいいんだが、お前に会えなくなるのが寂しいんだよ」なんて、ここでも娘思いの父親を演ずることになるが、「大丈夫だよ、彼は日本で仕事を見つけて日本に住むって言っているから」と娘が言っても、「いやいや、そうなると、あちらの親がかわいそうじゃないか」なんて言ったりして。

子どもの側も同様で、公園で手をつないで散歩する中年夫婦を見て和やかな気持ちになっておきながら、よく見たら自分の親であることがわかった途端に「やめてよ、お父さん、お母さん」なんてことを言わないではいられなくなる。

人間はそんなもん。そんなもんであるけれど、家庭内の感覚を社会に拡大するような人間になってはならない。まして法律家が家庭内道徳を法にした売防法を支持すべきいではないし、私の家庭内の事情にズケズケと踏み込む権利などない。公然とバカを晒す前に少しは頭を使え。

 

 

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