松沢呉一のビバノン・ライフ

相談できる客は客ではなくなる—要友紀子著『風俗嬢意識調査』の読み方[上]-[ビバノン循環湯 453] (松沢呉一)-4,170文字-

この原稿については「SWASH編『セックスワーク・スタディーズ』発売のお知らせと要友紀子著『風俗嬢意識調査』」を参照のこと

図版は内容となんも関係がない著作権切れの写真です。百年前のヌード写真やバーレスクの写真がムチャクチャよくて、暇があるとネットで検索して眺めているのですが、輪を使った写真がよくあります。たぶん始まりはバーレスクで使用したものではないかと思われます。そういうものだけを集めてみました。

 

 

 

『風俗嬢意識調査』の意義

 

vivanon_sentence作業が滞って、大幅に発行が遅れてしまった要友紀子著『風俗嬢意識調査』だが、ようやくほぼ完成した。私も手伝っていて、数字を見直すたびに、この調査の面白さ、重要性に気づかされた。

かつて私もヘルス嬢を対象にした小規模なアンケート調査を行っている。その調査で、普段私がヘルス嬢らに接してきた印象がそのまま数字になっていたり、あるいは私が思っていた以上に意識変革が進んでいたことが確認できたのだが、そこで出てきた傾向は、『風俗嬢意識調査』でも裏付けられている。

わかりやすい例を挙げる。拙著『風俗就職読本』において、私は[さほど流行っていないが、女のコがお茶を挽かない程度には流行っている店]で、副業ではなく、これだけが収入となっているヘルス嬢の平均的な月収を七十万円程度と仮定した。週5日程度は出勤しているってことだ。一日平均三万円くらい。

一般の会社員のように勤務日数や労働時間が平均化されておらず、賃金も平均化されておらず、十の労働量を十人で分担するか、二十人で分担するかは店の考え方にもよる。また、風俗店では「週に七日出勤」と「週に一日出勤」が共存しているため、店によって、個人によってのバラつきが大きいのだが、日頃接している専業ヘルス嬢の収入は七十万円前後というのが私にとっての納得しやすい数字だったわけだ。

今回の調査では、六十三万八千円という数字が出ており、この差は、私が想定した店は「平均よりは流行っているかもしれないこと」と、私が想定したヘルス嬢は「比較的出勤が多いこと」を反映したものとも言える。

これは一例だが、『風俗就職読本』で述べているように、私が日々感じている風俗嬢たちの印象はどの程度正しいものなのか、つまり、どの程度全体像をとらえられているのかについては、相当の不安もあった。私の中にもある思いが、その印象を歪めているのではないか。私が接している、颯爽と仕事をしている風俗嬢たちは、私が接している範囲のものでしかなく、まして友人づき合いをしている風俗嬢たちは、私の中にあるフィルターによって選別されていて、その限られた印象で語るのは間違いなのではないか。

メディア上では相も変わらず、お涙ちょうだい話やトラウマ話が流通し、それを見るたび、「よくこんなのを探してきたな」と感じるものの、自分自身が接している範囲での根拠はあっても、それ以上強く「これは例外的存在」と主張する客観的根拠がなかったのだ(そのわりには十分強く主張してきたが)。

その点では、『風俗嬢意識調査』によって、「なんだよ、オレが普段接している風俗嬢たちは、はみ出しものの例外的な存在ではない。彼女らの誰も一人で風俗嬢を代表することはできないにしても、それぞれに典型であり、平均的な存在なんだな」ということを確認できたと言っていい。いよいよ私の舌鋒が鋭くなるのは必至である。

Nickolas Muray. Doris Humphrey 1922-1961. Via eastmanmuseum 写真家の名前がNickolas Murayになっていますが、同じ写真がWayne Albeeの作品になっているものもあって、おそらくWayne Albeeの作品(下記参照)。

 

 

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