松沢呉一のビバノン・ライフ

決して私にしてはならない質問—人権と道徳の区別もできない弁護士(上)-[ビバノン循環湯 440] (松沢呉一) -3,618文字-

フリーが少ない日本のセックスワーカー—女王様の価格(2)」に「セックスワーク否定派の弁護士がゴロゴロしてます」と書きました。「おっぱい募金」反対署名に賛同し、拡散した弁護士が複数いたことでも明らかでしょう。アムネスティがセックスワークの非犯罪化を打ち出して以降は、今までのように内面化した家父長制道徳、宗教的道徳に基づくセックスワーク否定ができにくくなって、慎重な人であれば、ここに安易な知識では踏み込めないと気づき始めています。しかし、弁護士による軽卒な発言はかつてはもっとおおっぴらになされていました。そのことがわかる原稿を出しておきます。

この原稿は1999年に雑誌「創」に出したものです。このシンポジウム自体については別途批判していますが、ここでは会場からの質問を取り上げていて、この弁護士の発言は、『売る売らないはワタシが決める』の座談会でもお笑いの対象にさせていただいています。この弁護士が、弁護士会の人権擁護委員会のメンバーであることを知っておいていただきたい。シンポジウムの会場であり、SNSでうっかりという発言でもありません。弁護士会に所属する弁護士だからといって、人権感覚に敏感などとゆめゆめ思ってはいけない。

こういう人たちは今まで売防法維持だったわけですが、今は買春処罰に移行していそうです。反省もなければ節操もない。あるのはなんとしても道徳を維持したいって熱意だけ。人権よりも道徳を弁護する「道徳弁護士」です。人権を重視するのであれば 非犯罪化を目指すべきなのは明らかです(そのことがよくわかる中国の報告書について説明をした「売買春の禁止がHIVを広げ、人権を侵害する—中国のHIVとセックスワークについての報告書(上)」「結論は非犯罪化—中国のHIVとセックスワークについての報告書(下)」を読んでない方は読んでおいてください)。

図版は本年5月6日に、東京レインボープライドパレードに登場した「Gay=クィア」フロートを撮ったものです。前々から「レットアンブレラのパレードをやろう」という話は出ていたんですけど、「まだ早いんじゃないか」「人が集まらないだろう」なんて言っていたものです。ところが、今年になってから、同時多発でそんな話が東京や大阪で出てきて、一気に今回は最終フロートの後ろ半分がレッドアンブレラに。レッドアンブレラがセックスワーカーの権利運動のシンボルであることがまだ知られていないので、地道に説明をしてきたわけですが(「世界に広がる赤い傘—共感できるフェミニスト・共感できないフェミニスト 13」「増加し続けるセックスワーク関連団体の事情—おそらく現在500団体以上」など)、チマチマ私が書くよりも、路上に出た方が早かったでござる。

 

 

失礼極まりない弁護士

 

vivanon_sentence一九九九年三月二十日、大阪で行われたシンポジウムで、会場から私に向けられた質問を詳しくご紹介する。

これは大阪弁護士会・近畿弁護士会の人権擁護委員会の主催で行われた「買春問題を考える」というシンポ。松井やより(元・朝日新聞、現・アジア女性資料センター代表)と中里見博(名古屋大学法学部教員)、林功(「女のかけこみ寺」生野学園園長)、佐藤公美(unidos)と私というメンツである(肩書きは当時。松井やよりは故人)。

弁護士会は二度と呼んでくれそうにない気もするが、私としては是非ともまだやりたい。ホントに面白かったな、売買春否定をするような人々がどの程度差別的であるのか、どの程度愚鈍であるのかよくわかって。パネラーの一人が同性愛者に対して露骨な差別発言をしたのだが、司会(弁護士)もこの差別性に気づかず、あろうことか、それを批判する私の発言まで封殺しようとし、騒然になった会場の様子でようやくその発言の重要性に気づく体たらくであった。

最後は質問コーナーとなったのだが、会場の人が休憩時間にパネラーを指定して質問を紙に書き、各々それに答えるという方法がとられ、私は、いくつかの質問に答えて終えようとしたところ、会場にいた女性が「私の質問に答えて欲しい」と言い出した。彼女が言うには、自身もまた弁護士だそうだ(シンポジウムのあとで人権擁護委員会のメンバーであることを確認)。

その人物の質問用紙は別の人のところに紛れ込んでいて、私は見ていなかったのだが、司会からもこの質問に答えて欲しいとの要請があったため、その用紙を見て澱みなくお答えしたところ、なぜかその弁護士さんは、私の回答を無視した発言を続けた。何のための質問だよ。

よくいるわ、こういうタイプ。質問のコーナーなのに、持論の開陳に一所懸命で、「私をわかって、私を理解して」と自己アピールに必死になる人。裁判でもこんなことをやっているんですかね。お気楽な商売だな、おい。

こりゃどうにもならんと判断、私は「あとでゆっくりお話ししましょう」と言って打ち切った。シンポジウムのあと、彼女の姿を探したが、さっさとお帰りになったとのこと。質問をして私に答えさせておきながらそれを無視して、自論の開陳に終始して、とっとと帰る。人の意見は聞きたくもないわけだ。だったら質問なんてするな。自分の講演会でも開いて思う存分愛しい自分の話だけしてろ。失礼極まりない人間である。

まっ、そのあと、どっかよその場所で人の話も聞かないで持論の開陳をするのに忙しかったんでしょう。私も忙しい中、大阪まで行ったんですけどね。新幹線代さえ出していただければ、また、ゆっくり怒鳴り合いに伺いますぜ。

※最終フロートの前部はドラァグクィーンとゴーゴーボーイズ、後部がレッドアンブレラ。この流れは最高でした。ゴーゴーボーイズの中には雑誌でモデルをやったり、ゲイ向けのAVに出ているのもいます。売り専で働いているのもいるでしょう。そうじゃなくても、ゲイ・イベントで裸を晒しています。そこからレッドアンブレラまでがなだらかに続いている。「おっぱい募金」反対署名はHIV対策をする人々を悪用しながら妨害をしたわけですが、こちらはきれいにつながっておりますので、よろしくお願いします。なお、レッドアンプレラを持っていたのはセックスワーカーや元セックスワーカーとは限らず、知人にセックスワーカーがいたり、恋人がセックスワーカーだったりします。

 

 

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