松沢呉一のビバノン・ライフ

母性保護の行きついた先が戦争礼讃・ナチス礼讃—女言葉の一世紀 147(松沢呉一)-3,685文字-

婦選運動が選挙粛正運動と化して大政翼賛へ—女言葉の一世紀 146」の続きです。

 

 

 

母性保護が国家主義に直結した

 

vivanon_sentenceもともとそういう傾向の人だったわけですけど、吉岡彌生が強く国家主義を志向していったきっかけは母性保護だったのだのではないか、あるいは自身が望む国家主義に関与する契機が母性保護だったのではないかと思われます。

銃後の守りと言っても、育児がある以上、工場で働けない。そこをどう解決するのか。

 

 

時代の国民の資質を向上し、民族を増強するには、なにをおいても婦人に対する厚生的施設を充実することが必要であると痛感してをります。

最近にいたっては、生産力拡充の国家的要請にもとづいて、乳幼児をもった婦人たちが、巳むを得ず勤務する場合が多い。乳呑児を背負って工場に通ふ多くの婦人たちを見うけますが、これらの婦人たちが意識するとせざるとにかかはらず、この乳呑児をどうすべきかは国家的立場からり、充分考慮すべき問題でありませう。

ある会合で伺ったことですが、某工場では工場敷地の一画に立派な託児所を建てて、家庭婦人に呼びかけ、特に出勤時間をきり下げて、退勤時間をくりあげる方法をとったところが、近隣の家庭婦人が殺到して生産に参加したといふことです。工場のみならず、多くの職場でも既婚婦人を相当多く採用してゐるらしいが、もし託児所なり、保育園の設備をふやして、家庭婦人の勤労に便ならしめるやうにしたら、さらに多くの婦人が銃後の活動に参加し得るばかりでなく、乳幼児の保育についても甚大な効果をうげうることでせう。

(略)

要するに職業婦人のための厚生的、社会的施設は、一つは婦人の社会的文化的地位の向上を目標とするものであり、一つは母性として婦人の保護を目標とするものであります。これは或はいまのやうな非常時に、それほどの余裕がないではないかと問はれるかもしれません。しかしそれは全くあやまった見解であります。戦時であり、非常時であればこそ、一層その重要性が痛感されるわけです。

 

 

母性保護がもっとも必要とされるのは戦時なのです。生産性を高めるために女子の労働力が必要。その労働力確保のためには国家的見地から母性を保護し、育児負担をしなければならない。

 

 

政府にも影響を与えた吉岡彌生

 

vivanon_sentence昭和十五年に国民体力審議会が結成され、吉岡彌生もその委員となっていて、「母性及乳幼児体力向上方策に対する答申」を出しています。これが翌年の産めよ増やせよ政策にも影響した模様。

 

 

日本女性の教育水準を急速に高めなければならない時期に際会しました。日本の女性はすでに過去のやうなものでなく、大東亜の指導者としての日本女性に発展しなければならず、また高度国防国家の建設を期するために、男とか女しかいう風に性的差別に拘泥することなく、国防のために、生産力拡充のために、或は戦線に馳駆し或は銃後を守らなければなりません。女性の創意力を百パーセント生かし、全能力をあげて郷土を守り、国家を守らなければならない、大事な任務を負わされてをります。だから我が国の母性保護はイギリスやアメリカがいふやうな、女は弱いものであるから保護するとか、または言葉だけの男女同権のために、母性を保護するとかいふのではありません。我が国の母性保護こそは、全母性が国家に結び合はされ、あらゆる男女が、陛下の赤子として忠義の誠を捧げるために、もっとも正しい夫婦道による母性保護でなければならず、男女が正しく理解し合ひ、ともに愛し、ともに助け合ふものでなければなりません。

 

 

「女は弱いものであるから保護する」という考え方は英米ではなく、ドイツや北欧、そして日本の考え方だろうと思いますが、ここはもう「坊主憎けりゃ」の大本営方式でありましょう。

 

 

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