松沢呉一のビバノン・ライフ

いかに感心してもやってはいけないことがある—感心した話三題[ビバノン循環湯 456] (松沢呉一)-4,124文字-

15年ほど前にたぶん風俗雑誌「Ping」の連載に書いたもの。

 

 

 

感心した店のサービス

 

vivanon_sentenceある地方都市のヘルスで実践しているアイデアを聞いて感心した。

この店は次回指名してくれた客に対するサービスの内容を女のコに任せている。たとえば「次回は千円割引ね」と名刺に書き込んで客に渡す。次に来店した時に客がこの名刺をフロントに出すと千円割引になる。この割引料金は女のコの負担になるのだが、この店では指名料二千円は全額自分のものになるから、千円は残る。また、指名が増えると報奨金が出るので、メリットは大きい。

中には指名料無料や、三千円割引をやるのもいて、客としては、「そんなにオレのことを気に入ったのか」と思える。実際には指名が全然ないための苦肉の策だったりするわけだが。

統一して割引チケットを女のコや男子従業員が客に渡してくれる店もあるが、それよりも女のコ本人の気持ちで割り引いてもらった方が客は嬉しい。また、統一の割引チケットでは、どの女のコにも使えるため、女のコ自身のやりがいにはつながりにくい。

その点、この店のように、個々人の判断にお任せにすると、「この客は黙っていても来てくれるから割引しなくていいや」とか「この客は絶対戻したいから、特別に四千円引いちゃえ」なんていろいろ考えるようにもなる。この意識を持つようになるきっかけとしてこのアイデアは抜群にいい。

「お金を割り引きにするよりのも、もっと気持ちを込めた方がいいな」と考えて、「次回はプレゼントをあげます」なんて書いて、ちょっとした小物を買っておくコもいて、このシステム自体を楽しみ出し、指名を増やすことも楽しみ出すそうだ。

この店ではオプション料金もすべて女のコに全額入るため、これも指名特典にできる。「次回来てくれたらローターを使っていいよ」「次回はパンスト無料だよ」といった具合。

もちろん「次回来てくれたら本番OK」というのはなしだが、店の取り分を確保すればすべて女のコの裁量である。これも店としては禁止かもしれないけれど、「次回来てくれたら、メルアドを教えてあげる」なんてこともできて、客も楽しい。

難点があるとすれば、客がこのシステムを知ってしまうと、「次はもっと」と期待してしまい、図々しい客の中には「半額にしてよ」なんて言い出すのがいそうなことと、女のコ同士の関係がマズくなりかねないことか。

割引をせずに本指を稼いでいるコが、客に「××ちゃんは3千円割引してくれたよ」などと言われると「あの女、片っ端から割引して指名をとりやがって」なんて気分になりかねまい。また、この競争が激化すると、「ここまでやりたくないよ」という気持ちになることもありそう。

この店のオーナーは、女のコらとダチのようなノリで接していて、女のコらも気楽に相談したり、不満を言える関係なので、これがうまくできるのだろう。しかし、上から管理する発想の店だと、女のコらは鬱陶しく思うに違いない。

この店のオーナーによると、「今のところ問題はない」とのことだったが、このシステムを導入して間もなかったため、その後どうなっているのか気になるところだ。

Vintage nudes – Opus 6

 

 

感心した店の工夫

 

vivanon_sentence 東京に戻って、仲のいいヘルスの店長にこのことを話したら、「それはいいね。うちでもやろうかな」と言っていた。いくら工夫しても、すぐにパクるのが出てくるのも風俗業界の特徴である。って、この場合、私がくっちゃべっているんだけどさ。しかも原稿にまで書いて。

これはひたすら感心していい話だろうが、「感心しちゃいけないかもしれないが、感心してしまった話」がある。

ある性感店を取材した。店のスタッフが「できれば、サービス内容については触れないで欲しいんですよ」という。 意味がわからず、私は「はっ?」と聞き直した。詳しい事情を聞いて、「お見事」と私は膝を叩いた。私はフロントの横に立って話をしていたので、膝を叩くとピンポンパン体操みたいですけどね。

この店、王道の性感店によくあるように、女のコは服を脱がず、客は体に触ることもできない。しかも手コキである。よく風俗嬢の求人誌に「ノーヌード・ノータッチ」なんて書いてあって、裸にならず、触られもしないのかと思って面接に行ったら話が違い、普通のヘルスやイメクラだったりする。しかし、この店では、本当に「ノータッチ・ノーヌード」だ。

 

 

next_vivanon

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