人口は世界規模で取り組むべき課題—心のナチスも心の大日本帝国も抑えろ[2](松沢呉一)-2,525文字-
「ナチスの健康志向と人口論—心のナチスも心の大日本帝国も抑えろ[1]」の続きです。
世界の人口推移
前回出した各国の人口増加率の数値だけを見ると、中東地域を除くアジア諸国はたいしたことがないように思えるのですが、インド、インドネシア、パキスタン、バングラデシュ、フィリピンは億単位の人口を抱えていて、人口が1パーセント台で増えていくと、10年で数千万といった単位で増加してしまいます。
インドは1.43パーセントですが、数年内に中国の人口を超える見込みだと国連人口部が発表したことがちょっと前に話題になってました。母数が大きいと1.4パーセントでも瞬く間に人口が増えるのです。
国の状況次第ではあれ、人口増加率が1パーセントを越えると明らかに過剰で、世界第115位でしかないインドネシアでも、1.18パーセントですから抑制策をとり続けています。
世界の130カ国が1パーセントを越えていますから、世界規模で人口抑制を進める必要があり、現にそういった地域では抑制策がとられています。
以下は国連の「世界人口予測」から日本と東アジア、アジア大陸全体の出生率(女性一人当たりの生涯出産数)のグラフです。
この予測によると、日本はこれ以降上昇していくことになってますが、現在は最低値である1.43人です。アジア全体相当に出生率が抑えられていることがわかります。
以下は人口増加率世界第8位(3.27パーセント)のウガンダと東アフリカ、アフリカ大陸全体のグラフ。
アフリカでも抑制されてきていることがわかりますが、ウガンダは現在でも出生率が6人前後であり、アフリカ大陸全体でも4人台。この数字通りに人口が増えていないのはとくに乳幼児の死亡率が高いためです。生でバンバンやってボコボコ産んでバタバタ死んでいく。
人口抑制策をとらなければならない国の事情
人口増加がもたらすのは、食糧や水が不足して飢える国民が出ること、食糧不足・水不足による病気が増えること、とくにその影響が乳幼児に出ること、その解決のために紛争が生じること、酪農地を含む農地確保のため、森林の伐採などの自然破壊やそれによる災害が進むことなどが挙げられます。さらに子どもが多いことで貧困が進み、食べものも買えず、子どもらが働かなければならないために教育を受けられず、それが世代が入れ替わっても貧困層は貧困のままであることの原因になっています。
つまり、人口は、前回見た「エコの代名詞「有機農業」が、ナチスと深く関わった過去」が指摘する第一点目とも密接に関係しています。世界規模で見た時に、それらの国では貧困層が作り出す農作物を輸出して、先進国に住む人々の腹を膨らませている。国家間の貧富の差として表れています。先進国の富裕層が有機農法で作った作物を食べ、貧困層は農薬を使用した作物を食べ、発展途上国の富裕層も安全なものを食べ、貧困層は飢えて死ぬという構造です。
そのため、それらの国では、あるいは先進国においても、それらのエリアの人口抑制は喫緊の課題になっていて、テレビではコンドームやピルのCMはもちろんのこと、IUD(子宮内避妊具。いわゆるリングですが、現在はリング状ではないものが主流)、インプラント、パイプカット(精管結紮・卵管結紮)、堕胎薬・中絶薬のCMまで流れています(どこまでがアフター・ピルで、どこからが堕胎・中絶になるのかは議論もあるのですけど、受精卵の着床以降を堕胎・中絶とするのが一般的かと思われます)。堕胎薬・中絶薬のCMを流している国はさすがに少ないですが、インプラントまではポビュラーと言っていいでしょう。
先進国におけるコンドームの使用は、HIV対策に重きがあるわけですが、それらの国々では様相がまったく違うのです。
以下はパイプカットを勧めるインドの公共広告。
タイトルにあるNSV (No Scalpel Vasectomy)は中国で開発された画期的な精管結紮手術で、現在は世界に広がってます。私はこの動画がきっかけで初めて知りました。
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