松沢呉一のビバノン・ライフ

離婚したことありますか?—銭湯に見る人間関係[4](松沢呉一)-2,940文字-

金玉を出しているけど、金玉の話はしない—銭湯に見る人間関係[3]」の続きです。

 

 

 

子どもたちとの楽しい時間

 

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今年の夏休みが終わった数日後の夕方、公園で三人の小学三年生と仲良くなりました。カニ・スポットを教えてくれて、カニ採りをしました。楽しかったな。

「おっちゃんはこれから銭湯に行くよ」

「連れて行ってあげますよ」

仲良くなった友だちを案内するのが子どもたちは好きです。相手が五十歳くらい年上でも。

銭湯はそこから五分くらいのところにあって、一緒に歩き出しました。

一人はこれから行く銭湯に親と一緒に行ったことがあり、もう一人は別の銭湯に行ったことがあり、一人は銭湯に行ったことがありません。

「地域によっていろいろだけど、子どもの日とか、子どもはタダで入れる日があるので、皆で一度行くといいよ。親が同伴じゃなきゃいけなかったりもするけど」

銭湯についてそんな話していたら、一人の子がこう言い出しました。

「次はいつ来ますか」

「あー、わかんないなあ」

ここからちょっと離れたところにもう一軒銭湯があって、そこに行くついでにまた来てもいいのですけど、約束をすると裏切れないので、私はあいまいな返事をしました。

以前、板橋区で遊んだ子どもたちとまた会う約束をしたのですが、約束の日に公園に行ったらいませんでした。はっきり時間を決めていたわけではなくて、「来週の土曜日の午後またここで」といったいい加減な約束だったからでもあるのでしょうけど。約束して会えないのは大人だって悲しい。

でも、大人だって子どもだって、そんな約束は他の用事で簡単にすっ飛ぶってものですから、こういう約束はしない方がいい。

 

 

怪しいことこの上ないおじさんと銭湯へ

 

vivanon_sentenceそのうちの一人がこう言い出しました。

「もう会えないかもしれないから、一緒に銭湯に行きたい」

「一緒に行くか。銭湯代くらいおごってやるよ」

「本当ですか。でも、黙って行ったらあとで怒られる」

「銭湯くらいいいんじゃないか」

そうは言ったのですが、銭湯に行くこと自体よりも、ワケのわからないおっさんと一緒というところが問題か。「公園で知り合ったおじさんと友だちになって、これから銭湯に行くというので、一緒に行った」と、この日あったことを正確に親に伝えても、怪し過ぎます。

「黙っていればわからんだろ」

そう言いながら、このセリフ自体、いかにも悪いことをしそうな人が言いそうで、怪しいなと自分で思いました。

「でも、絶対ばれるよ。髪の毛が濡れているし」

浮気したことがばれるパターンです。パンツが裏返しになっていたり。ポケットに銭湯の名刺を入れっぱなしだったら確実にばれます。

「たしかにな。風呂に入ったあとは顔が上気していて、表情もゆるむからな」

 

 

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