松沢呉一のビバノン・ライフ

「田亀源五郎祝賀パーティ」にて—記録を残さないとなかったことにされる(松沢呉一)-3,074文字-

 

田亀源五郎とポット出版をつなげた男

 

vivanon_sentence一週間以上経ってしまいましたが、10月21日(日)、新宿二丁目のゲイバー「九州男」で、「田亀源五郎祝賀パーティ」がありました。

 

 

 

弟の夫』がヒットし、NHKでドラマ化され、各国で単行本が出され、国内外で次々と賞を受けたことを祝う会です。

版元の双葉社もこういった会をやっているのかもしれないですが、今回は田亀源五郎の漫画を掲載し続けている「バディ」のテラ出版と、田亀源五郎作品を多数単行本化しているポット出版が主催で、会場は二丁目。古巣って感じです。

田亀源五郎と、ゆかりのある人との対話が中心のイベントで、田亀源五郎が世に出る前から知る人、雑誌「G~MEN」に関わっていた時代を知る人、ゲイ・エロ漫画家としての地位を築く時代を知る人、『弟の夫』を世に出すことに関わった人、今現在の田亀源五郎と接点がある人など、いわば同志たちが、トークゲストとして祝辞を述べる趣向でした。

この会をやることが決まった時に、ポット出版の沢辺さんから、私にも祝辞の依頼がありました。当惑しました。

「いやいやいやいや、なんの貢献もしていない私がそこに入るのは変だろ」と思ったのですが、ポット出版と田亀さんをつなげたのは私らしいのです。

「えっ」と思いました。脳の容量がニワトリ並なので、古い話は自動的にゴミ箱に入れるプログラムがデフォルトで搭載されており、まったく記憶にない。

しばらく考えて、「あっ、あれか」と思い当たることがあって、Amazonで確認をしました。

これだ!

 

 

 

ここから次々とゴミ箱に捨てた記憶を拾い集めました。完全にゴミ箱を空にした部分があったものの、だいたい流れが判明しました。

 

 

記録に残す意味

 

vivanon_sentence直接田亀さんに関係がないのですが、まずその前段から。2000年に遡ります。

東京のプライドパレードの歴史はWikipediaにまとめられているので見ていただきたい。それまでにも開かれていたのですが、ゴタゴタがあったりして、2000年に「東京レズビアン&ゲイパレード(TLGP)」として再スタートを切ります。

素晴らしいパレードでした。

この年の「バディ」の忘年会で実行委員長の砂川秀樹氏に会った時に、「記録に残した方がいい」と強く勧めました。

なぜそう思ったのかと言えば、これから先、またゴタゴタがあってパレードは中止になるかもしれない。やれば叩かれることがわかっているので、誰もこんな面倒なことをやらなくなるかもしれない。しかし、記録を残しておけば、十年後、二十年後に、図書館か古本屋でそれを見かけて、「日本でもこういうのがあったのか。またやろう」と思う人がきっと出てくる。

パレードがなぜ必要なのかと言えば、ここにいることを主張しないといなかったことにされるからです。歴史も記録に残さないとなかったことにされます。

だったら消すことができない記録を残した方がいい。

 

 

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