松沢呉一のビバノン・ライフ

つながりの速度よりつながりの強度—狼煙派の決起[中](松沢呉一)-2,767文字-

 

「Making-Love Club」掲載の座談会—狼煙派の決起[上]」の続きです。

中川えりなは「あの人はなんとか派、この人はなんとか派って分けるのはよくないよ。私は私だよ」というタイプであって、あくまで「狼煙派書記長」というのはシャレです。本気にする人はいないと思いますが、念のため。

 

 

 

徐々に進行するSNS離れ

 

vivanon_sentence新潮45」の件で、「相手と討論した方がいい」なんて呼び掛けたことが何度かあって、自分で自分がイヤになります。

ブラック・トライアングル候補である社会的不適格者の私は、「話し合いを」なんて呼びかける柄ではないのです。「話せばわかる」なんて言いたいわけではなくて、「話してもわからんことはあるし、怒鳴り合いになるかもしれないけれど、クラスターの中で憎悪を増幅させるだけでなく、ちゃんと相手がいるところで議論をしようぜ」ってことです。あるいは「SNS以外の方法を活用しようぜ」ってことです。

これはいくつかの条件が重なったためなのですけど、中川えりなの影響もちょっとありそうです。頻繁に会っているわけではないのだけれど、最近もっとも私に影響を与えている人物です。ホントの話。めったに見かけないタイプなので、私は彼女に興味津々の状態が続いています。

私を含めて、SNSでの書き込みを積極的にはやらなくなっている人が周りには多数います。連日書き込んでいた人が数日に一回になっていたり、数ヶ月にわたって書き込みをしなくなっている人もいます。

Twitterは偽アカウントの削除で利用者数が一時的に減少し、Facebookは情報漏洩のダメージもあって利用者が減り続けていますが、LINEとInstagramの利用者は増え続けており、私の周りのSNS冷却期突入は局地的なものでしょう。

SNSは熱中する期間を経て冷却に入るパターンがつきものですから、いつでもこういう人たちが出てきてしまうのだろうとも思うのですが、私の周りに限って言えば、ただの「SNS疲れ」というより、もう少し積極的にSNSの見直しみたいな期間に入っているのが多そうです。いいこと。使い続けるにしても、そのリスクを見極めておくことが必要です。

私が告知以外の書き込みをほとんどしなくなって、タイムラインも一日五分程度見るだけで、それより国会図書館のサイトにばかり行くようになったのはいくつかの理由があるのですけど、このところ書いてきたように、SNSというものに対する疑問が生じていることも一因です。ずっともやもやとはしていたのですが、この疑問をはっきりと認識したのも中川えりなの動きを見ていてのことだったりします。

※Chim↑Pomによる展示と著名な死刑囚の最後の食事と同じメニューが楽しめる期間限定のレストラン「にんげんレストラン」。10月28日で終了。

 

 

狼煙派書記長・中川えりな

 

vivanon_sentence中川えりなはおもにInstagramを活用しており、TwitterとFacebookではほぼ告知しかやっていません。その告知もたまにやるだけ。

二十代にとって、Instagramがメインの選択は納得しやすいのですが、「チンコの生えた女たち—裸の文脈(6)」にも簡単に書いたように彼女はそもそもSNSを重視してません。クラスターという文脈に乗ることも、クラスターという文脈で見られることも嫌います。また、それを含めて、どうやってもSNSでは誤解が生じる。だったら、直接会って話した方がいいと考える。それだって誤解は生じるのだけれど、程度が違う。

よく私らが話しているのは「SNSは告知には便利。ニュースのチェックに使うのも便利。すでに関係ができている仲のいい友だち同士がどうでもいい話でなれ合っているのもいい。でも、それ以上のものとしては使わない方がいい」ってことです。

その代わり、中川えりなは聴衆の前で面と向かって人と会って話をする「Making-Love Club」の主宰としてイベントを組み、それを同名のジンにして情報を発信しています。

完全に「狼煙派」です。狼煙派の機関紙「Making-Love Club」はバックナンバーが売れ続けるので、時間をかけて採算ラインに達し、現在、5号のトータルでトントンとのこと。このトントンは経費分のことであって、彼女の時間や労力分はなお赤字。

部数を伸ばすには販路を拡大するしかないのですが、そうなったらそうなったで、直販は納品や清算に手間がかかります。しかし、彼女は「それはやるよ」と言っています。

あとは宣伝。「もう少しMaking-Love Clubのアカウントを更新した方がいいんじゃないか」と言ったら、「そうした方がいいとは思うんだけど、さぼっちゃうんだよねー」とのこと。こっちは面倒みたい。SNS軽視が著しい。最近は更新ペースがちょっとだけ上がってきてますけど。

※にんげんレストランの中。右にいるのは期間中ずっとチョコの柱を食べ続けてる人。上にいるのは24時間、衆人環視の中で生活している人で、この時はオシッコをしているところでした。トイレのドアは閉まりません。このあと取り壊しのビルのため、天井に穴を開け、瓦礫が床に転がり、ほこりまみれです。こんなところでメシを食うヤツはいるのか?

 

 

つながりの強度・つながりの質

 

vivanon_sentenceSNSは外に開かれている印象、対して印刷物、とくに購入できる場が限られるミニコミ、ファンジンの類いは閉鎖的な印象もあったりしますけど、彼女は人と直接話すこと、長文でそれを発信すること、それに値段をつけて売ること、店に置いてもらうこと、わざわざ人がそれを買いに行くことに意味を見いだしています。

 

 

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