一世紀以上前に書かれたTwitter批判の書—群衆心理に打ち勝つ方法[1](松沢呉一)-2,865文字-
「インターネットより狼煙の時代」シリーズからゆるくつながってます。
このブログは読んで欲しい
Twitterを始めた頃はTwitterやSNSに関する本を何冊か読みましたが、以降はまるで読んでません。「インターネットより狼煙の時代」シリーズを書くにあたって、ひさびさに何か読もうかとも思ったのですが、面倒なので読んでません。
ただ、考えを整理する上で、大いに参考になったものがあります。今回改めて読んだものではなく、しばらく前に読んだものですが、ここに書かれた内容ですっきり頭が整理されたところがあります。
「なぜネットで「在日認定」が行われるのか─ステレオタイプ論と群衆心理から」
「Making-Love Club」5号掲載の座談会で軽く触れたのはこのブログのことです。
これは「自分が何者であるのかを正しく認識させる権利」にも出てくるネトウヨが得意とするところの「在日認定」をテーマにしたもので、「なぜ彼らは根拠なく在日認定したがるか」という疑問に対する、ひとつの回答です。
「なぜ彼らは根拠なく在日認定したがるか」について深く考えたことがなかったのですが、私はこのブログで展開されている「ステレオタイプの防御」という説明に大いに納得しました。
他にも説明の仕方はあるでしょうけど、ひとつひとつこうやって丁寧に解析していこうとする姿勢は見習いたい。Twitterに浸っている人たちでは無理です。
以下はこのブログの内容を私なりに咀嚼したものであり、かつ、参考文献として挙げられているギュスターヴ・ル・ボン著『群衆心理』を読んだ感想です。補足的にそれ以外のことも出てきますし、その先の話も書いてますが、「在日認定」についての論旨は変わらないので、そこだけを知りたい人は「なぜネットで「在日認定」が行われるのか」を読めば十分です。
ヒトラーの参考書、ギュスターヴ・ル・ボン著『群衆心理』
「なぜネットで「在日認定」が行われるのか」が参考文献として挙げている三冊のうちの二冊は一世紀ほど前に書かれた、いわば古典です。群衆と化した人間の心理や行動はそう大きく変わらず、とりわけTwitterではそれが凝縮した形で表れるのを観察できるってことだろうと思います。
私が読んだのはギュスターヴ・ル・ボン著『群衆心理』のみですが(国会図書館が公開しているので、戦前の本を読むのが苦じゃない方はご利用ください)、その時代のフランスの事情がわからないと理解しにくい箇所が多く(とくに後半)、また、同意しにくい主張も多々ありはするのですが、今の時代にも通じる内容で、とくにSNS、とくにTwitterに見られる人々の心理と振る舞いを解釈するものとして大変面白く読みました。
ヒトラーもこの本に影響されています。
以下はWikipedia「ナチスのプロパガンダ」より。
体系的に大衆に影響を与える形態についてヒトラーは、特にギュスターヴ・ル・ボンの『群衆心理』(1895年)から示唆を得た。ヒトラーは『我が闘争』にこう書いている:
大衆集会では、孤独で寂しく感じる人間が、はじめて大きな共同体というイメージを受ける。職場でみじめに感じる一人の人間が、はじめて大衆集会に足を踏み入れ、思いを同じくする者が周りに何千人といれば、何かを探す者として有無を言わせぬ感激の巨大な効果に、何千もの人々によって引き込まれるならば、新たな教義は正しい、と何千人もの目に見える賛同から裏付けられれば、その時には群集暗示の魔術的影響のもとに置かれているのである。
群集心理は意識的かつ意図的に使いられ、ナチのプロパガンダの成功への鍵となった。
ヒトラーやゲゲッベルスだけでなく、各国のプロパガンダ担当はことごとくこの本を手本にしていたでしょう。日本でも明治末に翻訳されて以降、心理学の本、教育の本、警察官向けの本、軍人向けの本、工員管理のための本で群衆心理が取り上げられており、内務省も間違いなく研究をしていたはず。
本書の後半は群衆心理を踏まえた指導者の心得、選挙の立候補者や議会でのテクといった内容になっていて、為政者側から見るなら、国民の心理を読み、それをコントロールするためのハウトゥ書でもあるのです。
となると、この本は個々人が群衆心理に飲み込まれず、為政者にもコントロールされないためのハウトゥ書として読むことも可能です。それについてはこのシリーズの最後に触れます。
※法制時報社編『警察読本』(昭和五年)より。左翼運動、労働運動、左翼出版の対策を述べた内容で、人名・書名は書かれてないですが、ル・ボンの『群衆心理』を踏まえた記述になってます。
(残り 1053文字/全文: 3042文字)
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