松沢呉一のビバノン・ライフ

各種差別とその比較—心の内務省を抑えろ[22]-(松沢呉一)-3,228文字-

なくせる差別となくせない差別—心の内務省を抑えろ[21]」の続きです。

このシリーズは「ネトウヨ春(夏)のBAN祭りからスピンアウトしたものなので、図版がない時は祭りの写真を使っています。

 

経済格差による差別は深刻かつ広範

 

vivanon_sentence前回書いたように、理想として掲げるのはいいとして、現実にはすべての差別をなくすなんて考えるのではなく、「なくすべきものをなくしていく」と考えた方がいいのだと思います。かといって差別される分野を比較して優先順位をつけて、優先順位の高いものから取り組んでいくというようにきれいに線引きができるものでもない。

前回見たもので言えば男女別学については学校の自主性を尊重することが優先されるので、簡単に文科省がそこに踏み込むことはできない。そんなことになったら私も反対します。差別的な学校が消えることに反対なのではなく、そこに文科省が踏み込むことに反対。

なおかつ、別学によって目に見える形での不利益はさほど生じていない。むしろ偏差値高い系女子校のような「社会全体にとって有益と思われる存在」もあります。だったら放置でいいんじゃないですかね(本当はそれではいけないのではないかとの問題意識もあるのですけど、現状やむを得ない)。東京医科大が女子を排除して東京男子医科大になっても放置でいいのです。さんざん書いてきたように、東京女子医大の定員を超えない限りはこれを批判することはできないと思います。

実のところ、この社会であまりに広範囲にまかり通っている差別は経済格差によるものだと思います。親の経済格差は親自身が引き受けるしかないとして(親もまたその親が貧しいために貧困を強いられているってこともあるでしょうけど)、その子どもが不利になるのは理不尽であり、差別だと言っていいでしょう。

施設で育った子ども、生活保護家庭で育った子ども、年収三百万円の家庭で育った子ども、年収五百万円の家庭で育った子ども、年収一千万円以上の家庭で育った子どもとを比較した場合、大学進学率、東大進学率、医者になる率などで、あからさまな差が出るでしょう。差別がなされている範囲が広い上に、数値に出るくらいはっきりと存在している差別であり、個人が受ける不利益も社会が受ける不利益も大きいのです(社会的不利益は適材適所が実現されないなど)。

同じ調査を男女でやって比較すると、おそらく男女差よりも親の収入による差の方が大きい。貧富の差は大学受験以前の学力差となって表れてしまい、この改善はそんな簡単にはできないでしょう。「大学院までを含めて教育を受けるのに金がかからないようにする」「奨学金制度を整備する」などが、今できることの限界で、それ以上の改善はそうそうできないかと思います。

 

 

差別とその解消法のさまざま

 

vivanon_sentenceもっとひどい環境にいるのは障害者です。たとえば視覚障害者の就業率は低い。こちらによると23,9パーセントです。これは視覚障害者全体の数字なので、全盲になると20パーセントを切るでしょう。5人のうちの4人までは仕事がない。

知人は東大を出て留学もしているので、視覚障害者の中での超エリートですけど、就職はできませんでした。最初から大学なんて入らずに、マッサージの免許をとった方が生活できたかもしれない。結局今も最大の職業はマッサージや鍼灸のはずです。

障害年金がありますけど、それを含めても生涯の収入を比較をすると、健常者の半分をはるかに下回ります。

それでも確実に改善されてきています。今はパソコンが文章を読み上げてくれるため、事務採用される例が増えてきていて、翻訳能力を買われて企業に採用される人も出てきています。

図書館の点字翻訳は晴眼者のボランティアが無料でやっていることがおそらく多い。これは予算の関係もあるのですが、全盲だと元の本を読めないですから、点訳ができませんでした。でも、今はパソコンがあれば全盲でも点訳ができます。

自動点訳のソフトがすでにあるので、ただ点訳するだけだったら人は不要になってきてますし、音声を読み上げてくれる機器が発達したおかげで、音声読書が可能になり、デジタル化された文書だけでなく、紙に印刷された文書も聞くことができるようになってます。中央図書館であれば、視覚障害者のための読み取りや読み上げをやってくれる機器が設置されているはずですので、一度見てくるとよろしいかと。

しかし、点字が不要なんてことはなく、とくに視覚障害者用の受験問題のように、精度を高める必要のある点訳だと、その分野の知識のある全盲者が必要になります。一年を通してある仕事ではないですが、けっこうギャラはいいはずです。

 

 

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