松沢呉一のビバノン・ライフ

首吊り自殺は失敗しても死ぬ・スキューバダイビングは成功しても死ぬ—法医学者の報告より-[ビバノン循環湯 490] (松沢呉一)-3,729文字

どこかのムックに書いたものだと思うのですが、記憶にない。十年くらい前じゃないかと思うのですが、記憶にない。脳に酸素が行き届いていないのかもしれない。

現場写真を使用しているので、苦手な人は飛ばしてください。

 

 

 

首吊り死体を目撃することはそう珍しくはない

 

vivanon_sentence皆さんは首吊り死体を見たことがあるだろうか。私は今のところはないのだが、これを読んでいる人の中に数名は見たことのある人がいるはずだ。実のところ、そう珍しくはない体験なのである。

自殺の方法にも文化の差があって、日本では圧倒的に首吊りが多く、年間三万人を越える自殺者のうち、六割以上が首吊りである。第一発見者のみでも年間二万人程度の人が首吊り死体を目撃することになる。六千人に一人。

首吊り死体を発見者が一人で処理することはまずないのだから、多くの場合、一人の首吊り死体を複数人が目撃することになり、仮に今後もこのペースで推移すると、数十人に一人は生きているうちに一回は目撃するはずだ。

確率から言って、これを二度目撃する人は相当珍しくなる。職業柄、警官、医者、葬儀屋、また、富士の樹海など遺体が長いこと放置されやすい場所に行くような人たちは何度も見ることもあろうが、通常、遺体の発見者は家族、同居人であり、一人暮らしであれば友人、知人、恋人、大家である。大家はともあれ、家族や恋人が次々と首をくくるなんてことはないため、目撃しやすい立場の人以外が、複数回目撃することは非常に難しい。

数十という単位の人が目撃し得るビルからの飛び降り、列車への飛び込みと違って、首吊りは人目につきにくい場所、たとえば自宅であったり、職場であったり、ホテルであったりするため、部外者が目撃することは困難だ。多くの場合、それら第一発見者が通報しておしまいだろうから、首吊りの目撃者は広く万編なく拡散することになるわけだ。

 

 

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