松沢呉一のビバノン・ライフ

うまくいかないケースの方がずっと多いと客引きは言う—風俗嬢と客の結婚(上)-[ビバノン循環湯 478] (松沢呉一) -3,093文字-

おそらく2000年頃に、四国の風俗誌「PING」に書いたものだったと思います。

図版は結婚した風俗嬢と客っぽいフレンチポストカードです。こじつけです。すべて1900年から1920年代にかけてのものだと思います。今回の一番上の写真はあとでセピアをつけたもので、次回の青一色のものはインクの色だと思いますが、他の色付きは手彩色です。

 

 

 

客とつきあう可能性のある風俗嬢

 

vivanon_sentence客と直接交渉をして、店の外で商売をする風俗嬢が時々いる。また、客とつきあいだし、その客が「仕事を辞めて欲しい」と言い出すこともあるし、金目当ての男だと、さらに稼がせるために、別の店に彼女を移動させるなんてことも現にあるため、たいていの店では、客とつきあうことはもちろん、店の外で会うことも禁止されているものだ。

とは言え、好きになってしまう感情を禁止することはできず、店の外の行動まで管理しきれないため、「客とつきあうんだったら、男を連れて話に来い」と言っている店長もいる。無条件に別れさせるわけではなく、男を見定めるためである。いい加減な気持ちだったら男はこの段階で逃げる。女のコとしても男の気持ちを確かめられるので、これはいい方法かと思う。実際にこの店では何人かがこの手続きを経て客とつきあったことがある。

「どうして客なんかとつきあうのか、風俗店に来る客にはロクなのがいないだろう」と決めつけることこそが世間知らずってもん。もしそういう決めつけをする男とつきあうとする。風俗嬢であること、あったことは隠さなければならない。もしバレたら確実に蔑視されて別れることになる。それに引き換え、客であったら、仕事のことをすでにわかっているから隠す必要がなく、相談もできて楽なのである。

では、ここで皆さんにいいことを教えておく。私の見たところ、過去に客とつきあったことのある風俗嬢は、その後も客とつきあう可能性が高い。当たり前と言えば当たり前で、「絶対に客とはつきあわない」とか「つきあう対象にならない」という風俗嬢は3年やっていも5年やっていてもガードが固いものだ。しかし、そういう意識がないと、手短に客とつきあうことになる。一回つきあったということは、そういった厳格なルールを持ち合わせていない証拠であり、今後もまた客とつきあう可能性があるってことになるわけだ。

過去にそういう経験があったところで、こんなことを客に言わないコは言わないが、「前の彼氏は客だった」と言うくらいに至れば、相当に打ち解けているから、こんな話をしてくれたら、つきあってくれる可能性は高い。

たまには読者の役に立つかもしれないことを書いてみたが、思いつきを適当に言っているだけなので信用しない方がいいかと思う。世の中、口先だけの言葉を次々と繰り出す悪い人たちがゴロゴロいるので、気をつけて欲しい。

Romance

 

 

消えゆく貯金

 

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つきあった結果、風俗嬢と客が結婚することもそれなりにはある。風俗嬢としてはルール違反だから、店には詳しい話をせずに辞めることが多いのと、結婚して以降、「私たちはマットの上で知り合ったんですよ」と人に語る夫婦は皆無のため、あまり聞かないだけのことだ。

私としては、客とつきあうのも、結婚するのも本人次第であり、とやかく言うものではないと思うし、堂々彼女の仕事を認める男が増えることはいいことだとは思うのだが、男も女もどっちにとってもリスクがあることを覚悟のこと。

女の立場からすると、貯金をすべて吐き出すことになるかもしれない。男の立場からすると、「風俗嬢は金がたくさんあるから、つきあうといいよなあ」という意識をもっているような男は、自分自身が堕落する契機になりかねない。

そういう例を見ていくことにしよう。

何度か会ったことのあるソープ嬢が客とつきあい始めた。彼女は「彼と結婚して田舎に帰る」と言う。その話の通り、間もなく彼女は店を辞めた。

 

 

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