松沢呉一のビバノン・ライフ

いじめの時代—リンチの歴史[8](松沢呉一)-3,609文字-

不良ブームとリンチやらせ事件—リンチの歴史[7]」の続きです。

 

 

 

「いじめっ子」「いじめられっ子」

 

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1980年代以降は、それまでとはまた別のリンチが出て来ます。いじめの延長のリンチです。いじめのうちの暴行、傷害に至るような悪質なものをリンチと呼ぷ。思想的背景のないリンチは不良層が担っていたわけですが、これが拡大したものと言っていい。

教室内での暴力行為はそれ以前から見られるのですが、いじめという言葉とともにクローズアップされるようになり、内容も変化しています。

少年犯罪データベース」で、白書から引用したものの中に「いじめ」という言葉が登場するのは1984年(昭和59年)が最初です。

 

昭和59年(1984).3.〔女子中学生ら4人がリンチ〕

“いじめられっ子”をかばった女子中学2年生に「つっぱりでないなら丁寧な言葉を使え」と女子中学生ら4人が代わる代わる暴行を加え,さらに「根性焼きだ」と言いながらたばこの火でリンチを加え傷害で逮捕,補導。(青梅署) 警視庁「少年非行等の概況」引用。

 

「いじめ」ではなく、「いじめられっ子」という表現です。「いじめる(いぢめる/苛める・虐める)」という動詞はそれ以前から当然あったわけですが、この頃から語幹を抜き出して「いじめ」が名詞化。lynchが名詞化して日本的リンチが始まっていったように、いじめが名詞化して「いじめの時代」を切り開きます(行為はそれ以前からあっても、言葉が確立されたという意味です)。

「いじめ」という名詞が一般化するより先に「いじめっ子」「いじめられっ子」という言葉が出てきたのではないかとも思うのですが、国会図書館で検索する限りはすべて1980年代以降です。本の題号や章タイトルに使われていないだけで、それ以前からあったでしょうが、「いじめっ子」「いじめられっ子」もそれほど古い言葉ではないのかもしれない。

上の事例では、いじめた側は「つっぱり」なのか「つっぱり」ではないのかはっきりしないのですが、リンチをするのはつっぱりでしょう(とは言えなくなるのが、この時代以降の特徴です)。

 

 

いじめの多用は1984年から

 

vivanon_sentence警察白書」でいじめが初登場するのは1985年版で、この年から急に多数使用されています。

 

1985年(昭和60年)版

また、最近学校内においては、生徒間のいじめに起因する事案が多発し、特に、いじめの仕返しを動機とする殺人、放火等の凶悪な事件やいじめを原因とする自殺が発生するなど、重大な社会問題となっている。59年に警察が少年相談等を通じて把握したいじめに起因する事案は2,424件で、このうち、531件を事件として処理し、1,920人の少年について送致、通告等の措置を採った。また、これらの少年の生徒別状況は、表4-10のとおりで、中学生が全体の79.5%を占めて最も多い。今後は、これらの事件の背景を詳細に分析するほか、学校や家庭等と緊密に連携しながら、あらゆる機会を通じて、いじめをできるだけ早期に把握するとともに、いじめを原因とする事案の未然防止に積極的に努める必要がある。

 

1985年版は前年の事例をまとめたものですから、1984年に何か話題になるような事件があったのかと思って調べてみたら、大阪産業大学付属高校同級生殺害事件がありました。

 

 

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