「屋根の上のバイオリン弾き」とポグロム—ポグロムから学んだこと[3](松沢呉一)
「フェイクニュースを判定する困難と危険—ポグロムから学んだこと[2]」の続きです。
屋根の上のバイオリン弾き
「ザッカーバーグはユダヤ系なのに、どうして〝ホロコーストはなかった論〟を削除しないのか」という批判もなされていたようですが、ユダヤ系であろうとなんであろうとできないものはできない。「ユダヤ系だからホロコースト否定論は削除して当然」「ユダヤ系は誰でもサイモン・ウィーゼンタール・センターと同じ」と決めつけるのは属性に基づく偏見です。投稿を消すことになんの疑いもない鈍感な人たちがそう言いたくなるのはわかりますが、ユダヤ系という属性を超えて原則を貫くザッカーバーグ個人の意思を尊重すべきです。
あるいは、ユダヤ系だからこそ削除しない可能性だってあることについても考えた方がよさそうです。おそらくザッカーバーグはそこまでは考えていないでしょうが、ポグロムで頭がいっぱいの私はそこまで考えてしまいます。
昨年末からヒトラーやナチスについて調べ始めて、もっともショックを受けたのは「ポグロムとホロコースト—日本におけるヒトラーの評価[3]」で見たポグロムでした。ユダヤ人虐殺の歴史はナチスよりはるか前から脈々と続いていました。むしろそれはドイツ以外でなされ、ヒトラーが『我が闘争』で蔑視を向けた東方ユダヤが生じたのはロシアのポグロムが原因です。ロシアのポグロムから逃れた人々がドイツに流れ込んで、ドイツの人たちが疎んじてホロコーストにつながります。
これも今回初めて知ったのですが、「屋根の上のバイオリン弾き」は帝政ロシアでのポグロムをテーマにしたものなのですね。
映画版よりそのシーン
このコメント欄に「この映画を観た時、8歳だったので、どうして彼らがこんな目に遭うのかわからなかった」とあります。私は最近まで8歳でした。
なぜ私はポグロムについて知らなかったのか
ポグロムという言葉さえ私は今まで知らずにいて、知っている人たちからすれば「いまさら何を言っているんだ」って話かと思うのですが、たぶん私のような日本人は決して少なくないかと思います。ホロコーストは知っていてもポグロムという言葉は知らない。よってその中身も知らない。ぼんやりとユダヤ迫害は以前からあったということを知っているだけ。
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