松沢呉一のビバノン・ライフ

悪質な性風俗店の代名詞「名古屋系」—監禁されたヘルス嬢[1]-[ビバノン循環湯 506] (松沢呉一)

これは2002年頃に「ダークサイドJAPAN」に書いたもの。

原文ではB系列となっていましたが、これは「ブルー系列」と言われる名古屋の系列店のことで、今回は「ブルー系列」に直してます。

2010年、「愛知県警警部脅迫事件」が起きて、ブルー系列の経営者が逮捕され、実刑判決を受けています。この事件では、噂されていた通りに警察の内部にも複数の協力者がいたことが明らかになってます。弁護士もついていて、いずれも有罪判決を受けてます。これでやっとこの系列店の問題が明るみに出たわけですが、そんな事件があろうとなかろうと、性風俗店として問題だらけだったのです。

一時歌舞伎町で「名古屋系」と言われる悪質店が複数あって、おそらくこれもブルー系列だと思われます。この原稿から間もなく始まった浄化作戦によって、これら名古屋系は消えましたが、優良店も消えてしまい、風俗誌も消えてしまって、私も風俗ライターを廃業。せっかく店とメディアと客によって健全な発展をしてきたのに、浄化作戦で潰されたと言っていいでしょう。

その点、名古屋では東京や大阪のような無許可店と言われる違法店はその当時からほとんど存在しなかったのですが、ブルー系列のような悪質店が横行。法で縛ったところで、そういうことになってしまう。名古屋ではなぜそんなことになってしまっていたのかについての取材もした方がよかったのですけど、私は風俗ライターではなくなってしまいましたし、風俗ライター時代でもこういう原稿を書ける場はほとんどなかったですから、名古屋まで行って取材をすることも容易ではありませんでした。

この原稿でメインの舞台になっているのはブルー系列とおそらくつながっている系列店です。ブルー系列の店舗は店名に「ブルー」がつくことが多かったのですが、この店舗にはついておらず。しかし、やり口はブルー系列とまったく同じです。系列ではないにせよ、おそらく山口組系弘道会傘下でしょう。その後名古屋ではこういった悪質店が消えたのかどうかも取材していないのでわからないです。

前振りが長いですが、これは風俗産業を否定したい人たちが、こういう事例を利用することを防ぐためです。この話を語ってくれた人物も、性風俗を否定したいのではなく、悪質な店舗をなくしたいだけであり、それを性風俗全体の否定に利用されるのは不本意です。しかし、現にそういう人たちがいるために、注釈なしでは出しにくいのです。掲載された原稿では前半は大幅に削ったと思いますが。

「本文と関係ありません」と注釈を入れたところで、また、名古屋と関係のない地域の店であっても、この内容では実際の風俗店の写真は入れにくいので、Googleストリートビューで名古屋の風景と、メトロポリタン美術館から借りた監禁イメージの図版を使用しました。

 

 

風俗店と監禁事件

 

vivanon_sentence「監禁され、暴力によって売春を強制されている女がいる」。そんな記事を見かけることがある。

注目されたがりのライターが、1の話を10に膨らませていることもあるだろうが、風俗産業や売買春に反対する人の中にも、こういった例をことさらに取り上げたがるのがいる。たいていは数十年も前の事例や外国人労働者の事例をあたかも現在の風俗店全般でごく当たり前のように行われているかのように書いているだけのことだ。

外国人の場合は、違法労働になることがあり、まして滞在そのものが違法だと、警察に駆け込んでも強制送還される。彼女らは自国で借金をして日本に来ていることがあるため、金を稼いで帰らないと借金が残ってしまう。

パスポートや在留許可証を取り上げられたら、逃げ出したところで他では働くことが困難になる。また、そもそも他国である日本では、知り合いもおらず、地理もわからない。言葉だってカタコトだ。

こういった弱味につけこまれる例があるのは事実として、重きがあるのは「外国人」という特性であろう。だから、工場労働などでも同様の例があり、脱走した外国人のニュースが時折流れる。

パスポートや在留許可証なんてもんはなく、強制送還なんてこともない日本人においては、監禁されような例はうんと少なくて、だから何十年も前の話を持ち出すことになるのだろう。

しかし、風俗誌に出ているようなヘルスでも、監禁が今の日本でなされる例が皆無とは言えない。外国人の比ではないしても、弱味につけこまれるのだ。

そういう話は怪しいものも多いのだが、私自身、「これは本当だな」と思えた例がある。

そのことを具体的に書く前に、この例は特殊な街の、特殊な例であり、性風俗産業全体に広げられるものではないことをご理解いただくために、先に説明を加えておくことにする。

※Goya「The Custody of a Prisoner Does Not Call for Torture (La seguridad de un reo no exige torment)

 

 

next_vivanon

(残り 1816文字/全文: 3837文字)

ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。

ウェブマガジンのご案内

会員の方は、ログインしてください。

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ